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旧盆の祈り 大切な故人へ思い届ける 真栄田若菜(IAm(アイアム)共同代表理事)<女性たち発・うちなー語らな>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
真栄田若菜

 あっという間に8月も後半に入り、旧盆が近づいてきた。亡くなった母が今年もこちらに帰ってくる。仏壇に何を飾ろうか。どんなごちそうが食べたいかな? 旧盆が近づくと母が好きだった食事を思い出しながら準備をする。

 母は生前「旧盆には私の好物と、あなたたちの食べたい物を供えてほしい。みんなが好きなものを一緒に食べた方が楽しいから」と言っていた。

 そのためわが家のウンケーの食事は、母が好きだった温かいコーヒーを入れ、トーストにバターを乗せ、サラダと果物を添えて仏壇の前に供えることから始まる。

 生前好きだったお菓子を並べ、母が生まれ育った八重山の民謡を流しながら、家族、親戚みんなで思い出話に花を咲かせながら母を迎える。ナカビには冷やしそうめんとお刺身を供え、ウークイにはオードブルを囲みながら乾杯し、「今年もありがとう。また来年会おうね」と言いながら母を見送る。

 私が小さい頃のお盆のイメージは、お祭りのような感覚に似ていた。仏壇にはたくさんの果物がきれいに左右均等に並べられ、豪華で鮮やかなコーグヮーシとちょうちんが飾られ、夜になるとエイサーや獅子舞を見に行く。旧盆最終日の夜、お見送りの後は仏壇に飾られていたものを家族みんなで分けて食べる。楽しみにしていた夏のイベントの一つだった。

 もともと旧盆に供える食事や、お供えの方法には古くから伝わるものが多くあるが、近年、家族構成の多様化、仏壇や仏具のデザインの多様化もあり、旧盆のお供えも各家庭によって変化してきているように感じる。

 私にとって母の仏壇は、母へつながる固定電話のようだと思っている。もちろん会話はできないが、ウートートーすると、留守電を残しているような感覚になる。旅行や食事が好きだった母はきっと、私たちを見守りながら、いろんな国を周り、たくさんの景色を眺めながら過ごしているだろう。そしてどこかで一息つく時に、留守電を聞いていてくれているだろうと信じている。

 仕事や留学などで沖縄県外や海外で暮らしているため、旧盆に合わせて帰郷するのが難しい人もいるだろう。夏休み期間は航空運賃も高く、特に今年は台風の影響で航空機や船便の欠航や遅延が相次いでいる。

 旧盆に帰郷できなくても、豪華なごちそうや品数豊富な手料理が用意できなくても、遠く離れていたとしても、旧盆には手を合わせて、旅立った人を思う気持ちが大切なのではないか。あなたの思いはきっと、夏の風に乗って空の向こうまで届いているはず。