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【深掘り】最低賃金引き上げで、人材確保の命題は? 適切な価格転嫁が重要 沖縄


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
県内の最低賃金の方向性について話し合う沖縄地方最賃審議会=7日、那覇市おもろまち

 2023年度の全都道府県の最低賃金(最賃)引き上げ額が出そろった。沖縄は時給853円から43円引き上げて896円で決着。国の中央審議会が示した引き上げ目安の39円から4円高く、43円は過去最大の引き上げ幅となった。小規模・零細が多い沖縄の事業者にとっては負担増となる厳しい取りまとめとなったが、目安額に大幅に上乗せする事例は全国で相次いだ。人材確保や定着に向け、「賃上げ」は避けて通れない命題になっている。

 目安額は経済状況に応じて都道府県をA―Cの三つにランク分け。その上で上げ幅をAは41円、Bは40円、Cは39円とした。沖縄と同じCに入った12県のうち11県が沖縄より1~4円高い上げ幅に。下回ったのは1県だけ。各地で地域間格差を埋めようとする動きが目立った。

 改定の影響度

 連合沖縄によると、国の調べで最賃の引き上げにより水準が上がる労働者の割合(影響率)は、沖縄が43円の引き上げで16.4%となった。今回の改定で直接影響を受ける労働者の割合を指す。最賃の設定や上げ幅が違うため単純比較はできないが、各地は20%台が多く、影響度は全国ほど大きくないのが実情だ。

 実際に、県内では強まる人手不足感の中、求人企業の時給額は高くなっている。ハローワーク沖縄で受理したパートタイム(全業種・全職種)の平均賃金は現行の最低賃金を240円ほど上回る1100円前後で推移。6月は985円に下落したが、上昇傾向にある。

 一方、消費者物価指数は2020年を100とした場合、23年6月の全国の105.2に対し、沖縄は107.2と全国を上回る水準で伸びている。

 ただ今回の改定では沖縄と並び昨年全国最下位の最賃だった鹿児島や宮崎は沖縄より1円高い44円の引き上げだった。連合沖縄の知花優事務局長は、県外の地方都市では賃金の高い地域への人材流出が起きているとし「沖縄でも起こりえる。人手不足だからこそ沖縄で働きたいという内容にしないといけない」と指摘。政府が時給千円の達成を掲げる中、「上げない理由がない」と賃上げ継続の必要性を強調した。

 生産性の向上へ

 物価高に賃金が追い付いていない現状はあるものの、県内の消費力は落ちていない。個人消費はコロナ禍からの回復で外出機会が増え、百貨店・スーパー、コンビニ、ドラッグストアは昨年10月以降の売り上げがいずれも前年を上回っており、価格転嫁が一定程度、受け入れられている。

 ただ転嫁の判断で二極化も予想される。原材料やエネルギーの高騰などに直面しながら値上げに踏み切れない事業者にとっては、今回の最賃改定が支出増となり、資金繰りや雇用確保に苦しむことも想定される。

 こうした事態に対応するため、沖縄地方審議会は付帯決議で労務費や原材料費などの上昇分を適切に価格転嫁する取り組みの重要性を指摘。ビルメンテナンスなどの公共調達でも受託業者が支払い能力を担保できる受発注関係の改善を求めた。

 県中小企業団体中央会の岸本勇会長は「(上げ幅)5%(43円増)は厳しいという声は早速聞こえている。ただ中小企業は社員との距離が近い。生活を考えると多少は受け入れざるを得ないと思っている」と複雑な心境をのぞかせた。

 県中小企業家同友会の喜納朝勝代表理事も現状は、賃金の底上げの必要性を感じつつ「生産性を高めて対応してくことが重要になってくる」と話した。
 (謝花史哲)