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沖縄戦遺族、納得しない 県、激戦地の土砂採掘を近く許可 壕崩落を懸念する声も


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糸満市米須の慰霊塔(写真左)近くにある鉱山

 糸満市米須の鉱山開発で農地転用を許可する県の方針が示されたことで、搬出入道路の着工と土砂採掘が現実味を帯びた。地元住民や沖縄戦の遺族、市民団体などは開発に強く反対する。沖縄戦戦没者の遺骨が採掘土砂に混じることや、開発地に隣接する自然壕「シーガーアブ」の崩落を懸念する声も依然として上がっている。

 「シーガーアブ」は古くは風葬墓として利用され、沖縄戦では避難した家族が米軍の呼びかけに応じなかったため、石油を流し込んで燃やしたという字誌の記録もある。米須区の60代男性は「戦没者の遺骨が眠り、さまざまな慰霊塔も立ち並ぶ一帯だ。開発で聖地を荒らしてほしくない」と願う。「区民は報道でしか計画を知る手段がない」と不満も示し、住民説明会の開催を求めた。一方、50代男性は「生活のためには仕方ない」と思いを語る。

 鉱山に隣接する山城区の区長、仲門啓太さん(38)も「粉じんや騒音、ダンプカーの往来による危険性も懸念される。しっかり説明してほしい」と地元への説明の必要性を指摘する。地域の高齢者から戦争の話を聞き、子どもの頃に不発弾を見た体験などに触れて「採取する土砂に遺骨や遺品が混じらないようしっかり調査してほしい」と県に求めた。

 沖縄戦遺骨収集ボランティア「ガマフヤー」代表の具志堅隆松さんは「県民や遺族は納得しない」と述べ、遺族公聴会の実施を再度、県に働きかける考えを示した。
 (中村万里子、岩切美穂、岩崎みどり)


国、土砂採取に南部追加 新基地建設 県、業者に措置命令

 沖縄戦跡国定公園内にある糸満市米須の鉱山開発は、沖縄土石工業が2020年12月、糸満市に開発を届け出て始まった。国は名護市辺野古の新基地建設の埋め立て土砂採取候補地に本島南部を追加している。本島南部で土砂搬出を計画する同社に対し、反発の声も上がった。沖縄戦遺骨収集ボランティア「ガマフヤー」の具志堅隆松代表らが21年3月以降、ハンガーストライキなどで抗議の意思を示した。

 県は21年5月、同社に対し、採掘開始前に戦没者の遺骨の有無を確認することなどを求める措置命令を出した。同社は措置命令を違法として、国の公害等調整委員会に裁定を申請。22年6月、遺骨が見つかった場合は同社が採掘作業を中断するなどの条件付きで採掘を認めるとの合意案を公調委が示し、県と同社が合意した。

 沖縄土石工業は22年12月、合意を反映させた開発の再届け出を県に提出。23年3月以降は、琉球石灰岩を搬出するための道路建設予定地の農地一時転用申請の県審査が続いていた。並行して、搬出道路に隣接し沖縄戦で地元住民の避難などに使われた自然壕シーガーアブについて、測量など「記録保存」の手続きが進められた。
 (岩切美穂)