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【全文】辺野古訴訟 最高裁判決内容


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 名護市辺野古の新基地建設の設計変更申請の不承認を巡る訴訟で4日、最高裁が県の上告を棄却し、県の敗訴が確定した。判決全文は次の通り。

 令和5年(行ヒ)第143号

 判決

 上記当事者間の福岡高等裁判所那覇支部令和4年(行ケ)第3号地方自治法第251条の5に基づく違法な国の関与(是正の指示)の取消請求事件について、同裁判所が令和5年3月16日に言い渡した判決に対し、上告人から上告があった。よって、当裁判所は、次のとおり判決する。

 主文

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 理由

 上告代理人加藤裕、同仲西孝浩、同宮國英男の上告受理申立て理由(ただし、排除されたものを除く。)について

 1 沖縄防衛局は、普天間飛行場の代替施設を沖縄県名護市辺野古沿岸域に設置するための公有水面の埋立てに関し、公有水面埋立法42条3項において準用する同法13条ノ2第1項に基づき、埋立地の用途及び設計の概要に係る変更の承認の申請(以下「本件変更申請」という。)をしたところ、上告人は変更を承認しない旨の処分(以下「本件変更不承認」という。)をした。被上告人は、沖縄防衛局の審査請求を受けて、本件変更不承認を取り消す裁決(以下「本件裁決」という。)をし、その後、地方自治法245条の7第1項に基づき、沖縄県に対し、本件変更申請に係る変更の承認(以下「本件変更承認」という。)をするよう是正の指示(以下「本件指示」という。)をした。

 本件は、上告人が、本件指示は違法な国の関与に当たると主張して、同法251条の5第1項1号に基づき、被上告人を相手に、本件指示の取消しを求める事案である。

 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。

 (1)沖縄防衛局は、普天間飛行場の代替施設を設置するため、平成25年3月22日、沖縄県知事に対し、沖縄県名護市辺野古に所在する辺野古崎地区に隣接する水域の公有水面の埋立ての承認を求めて願書を提出し、同年12月27日、その承認を受けた。

 (2)沖縄防衛局は、上記承認の後に判明した事情を踏まえ、地盤改良工事を追加して行うなどするため、令和2年4月21日付けで、上告人に対し、本件変更申請をした。上告人は、令和3年11月25日付けで、公有水面埋立法42条3項において準用する同法13条ノ2第1項並びに同法42条3項において準用する同法13条ノ2第2項において準用する同法4条1項1号及び2号の各規定(以下「本件各規定」という。)の要件に適合しないなどとして、本件変更不承認をした。なお、本件変更申請に係る沖縄県の事務は法定受託事務である(同法51条1号、地方自治法2条9項1号)。

 (3)沖縄防衛局は、本件変更不承認を不服として、令和3年12月7日付けで、地方自治法255条の2第1項1号に基づき、公有水面埋立法を所管する大臣である被上告人に対し、審査請求をした。被上告人は、本件変更不承認に係る上告人の判断は裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものであって、本件各規定に反し違法であるなどとして、令和4年4月8日付けで、本件変更不承認を取り消す旨の本件裁決をした。

 (4)上告人は本件裁決後も本件変更承認をしなかったところ、被上告人は、これが上告人の裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものであり、「都道府県の法定受託事務の処理が法令の規定に違反している」(地方自治法245条の7第1項)と認められるなどとして、令和4年4月28日付けで、沖縄県に対し、本件変更承認をするよう本件指示をした。

 (5)上告人は、本件指示を不服として、令和4年5月30日付けで、国地方係争処理委員会に対し、地方自治法250条の13第1項に基づく審査の申出をしたが、同年8月19日付けで、本件指示は違法でないと認める旨の審査の結果の通知を受けた。上告人は、これを不服として、同月24日、同法251条の5第1項1号に基づき、本件訴えを提起した。

 上告人は、本件変更申請が本件各規定の要件に適合しないなどとした上告人の判断は適法であるから、本件指示は違法であるなどと主張している。

 3(1)法定受託事務に係る都道府県知事の処分についての審査請求に関しては、原則として行政不服審査法の規定が適用されるところ(同法1条2項)、同法は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民が簡易迅速かつ公正な手続の下で広く行政庁に対する不服申立てをすることができるための制度を定めることにより、国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とするものである(同条1項)。そして、同法は、52条1項において、審査請求がされた行政庁(以下「審査庁」という。)がした裁決は関係行政庁を拘束する旨を、同条2項において、申請を棄却した処分が裁決で取り消された場合には、処分をした行政庁(以下「処分庁」という。)は、裁決の趣旨に従い、改めて申請に対する処分をしなければならない旨を規定しており、これは審査庁が処分庁の上級行政庁であるか否かによって異なるものではない。その趣旨は、処分庁を含む関係行政庁に裁決の趣旨に従った行動を義務付けることにより速やかに裁決の内容を実現し、もって、審査請求人の権利利益の簡易迅速かつ実効的な救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することにあるものと解される。

 そうすると、法定受託事務に係る申請を棄却した都道府県知事の処分について、これを取り消す裁決がされた場合、都道府県知事は、上記裁決の趣旨に従って、改めて上記申請に対する処分をすべき義務を負うというべきである。仮に、上記裁決がされたにもかかわらず、都道府県知事が上記処分と同一の理由に基づいて上記申請を認容する処分をしないことが許されるとすれば、処分の相手方が不安定な状態に置かれ、紛争の迅速な解決が困難となる事態が生ずることとなり、上記裁決が国と普通地方公共団体との間の紛争処理の対象にならないものとされていること(地方自治法245条3号括弧書き)に照らしても、相当でない。

 以上によれば、法定受託事務に係る申請を棄却した都道府県知事の処分がその根拠となる法令の規定に違反するとして、これを取り消す裁決がされた場合において、都道府県知事が上記処分と同一の理由に基づいて上記申請を認容する処分をしないことは、地方自治法245条の7第1項所定の法令の規定に違反していると認められるものに該当する。

 (2)前記事実関係等によれば、本件裁決は本件変更不承認が本件各規定に違反することを理由として本件変更不承認を取り消したものであるところ、上告人は本件変更不承認と同一の理由に基づいて本件変更承認をしないものといえるから、そのことは地方自治法245条の7第1項所定の法令の規定に違反していると認められるものに該当する。

 4 以上のとおりであるから、本件指示は適法であるとした原審の判断は、結論において是認することができる。論旨は採用することができない。

 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

 最高裁判所第一小法廷
 裁判長裁判官 岡正晶
 裁判官 山口厚
 裁判官 深山卓也
 裁判官 安浪亮介
 裁判官 堺徹