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先週北海道を旅しました。早朝散歩しようと湖畔に出たら、大きな黒い蝶(ちょう)がやってきて、私の回りをくるくると舞い始めました。飛び方がぎこちないので目をこらして見たところ、羽が少し欠けています。ふと、摩文仁で出会った蝶を思い出しました。
数年前の明け方のことです。沖縄戦当時、知人が隠れたという摩文仁にある墓の前で、私はスケッチをしていました。知人は家族と共に入っていた壕を日本軍に追い出され、「ご先祖に守っていただこう」と、墓の中に隠れて生き延びたのでした。私は以前、この話の絵本を作りました。
この時スケッチしていた私の元に、黒いアゲハチョウがやって来て、足元に止まりました。蝶は魂を運ぶと聞いていたので、ちょっと驚きました。飛び方がおかしいなと思い、よく見たら羽の一部が欠けています。傷ついて弱っている様子が戦場で息絶えた人々の姿に重なりました。故郷から遠く離れた地に連れて来られ、墓にも壕にも入れずに負傷し、誰にも伝えることができずに息絶えた人たちが何万人もいるのだと実感したのでした。私はそれまで生き残った方々と戦争を語り継ぐ絵本を作ってきました。でもその日からは、死者の魂が故郷に帰れることも祈りながら、絵を描くようになりました。
沖縄戦での北海道出身の死者は、県外で最も多く、1万人を超えます。あの日摩文仁の墓の前で出会ったのと同じ、傷ついた蝶が来てくれて、不思議な気持ちになりました。黒い羽が朝日を受けて青や緑に光り、とても美しい蝶でした。沖縄の古い言葉で、美しい蝶をあやはべると言います。旅を終えたら、あやはべるを描きたいと思います。