『写真集「戦争は終わっても終わらない」』 生き延びた人々との往復書簡


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『写真集「戦争は終わっても終わらない」』大石芳野著 藤原書店・3888円+税

 戦後70年の節目に、国会は安全保障関連法案を可決した。戦後否定してきた集団的自衛権を認め、後方支援という形で日本は戦争に参加できる国になろうとしている。また、政府は米軍普天間基地を移設する新基地建設を沖縄県知事が反対する中「粛々」と進めている。日本が始めた太平洋戦争は、1945年に終わった。が、戦争が引き起こした諸問題を私たちはしっかりと解決できたのだろうか?

 僕は72年生まれなので沖縄戦も、米軍統治時代の沖縄も経験していない。だからこそ考えないといけない。戦争とは何だったのか? 戦後の日本の歴史を学ばないといけない。
 大石芳野写真集「戦争は終わっても終わらない」には108名もの個人名が記されたポートレートが収められている。長崎、広島、沖縄。それぞれの地で戦禍を生き延びてきた一人一人の戦後が静かに語られている。
 被写体は、近しい者に撮られた何気ない日常の一コマのように写されている。写真を見る僕をはっとさせるような、「写真」の鋭さはない。同じく、戦後日本を撮り続けた東松照明の写した、被爆者の肖像は一度見たら忘れ難い。その写真は、ダイヤを思わせる強度がある。
 大石は、住民が強制移住を強いられ、マラリアで多くの犠牲者を出した波照間島や、過酷な労働が坑夫に強いられた西表島を取材している。日本の中で弱者として扱われた沖縄。その沖縄でも弱者であった人々へ大石のカメラは向けられる。得難いことである。
 「他人(ちゅ)に殺(くる)さってん寝(に)んだりーしが、他人殺(ちゅくる)ちぇ寝(に)んだらん」という思想にヤマトンチュは長い間にわたって甘え、当たり前のこととして慣れ親しんできたのではないか? と大石は問う。東松は写真はイメージでつづるラブレターだと言った。ならば大石の写真は往復書簡なのだ。三線に沖縄の明るさや優しさだけでなく哀愁を聞く者の写真は、見るものに何を見いだし、行動するのかと問う。(タイラジュン・写真家)
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 おおいし・よしの 1944年生まれ。報道写真家。東京都出身。日本大学芸術学部写真学科卒。元東京工芸大学芸術学部教授。戦争、内乱後の市民に目を向けたドキュメンタリー作品を手掛け、ベトナム戦争、カンボジアの虐殺、スーダンのダルフールの難民、原爆の広島の人々などを取材してきた。

戦争は終わっても終わらない 大石芳野写真集
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