辺野古、安保法 柄谷行人氏に聞く


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沖縄の基地問題、安全保障関連法について語る柄谷行人氏=東京都内

自衛権を「贈与」せよ
基地撤去なければ独立を

 翁長雄志県知事が仲井真弘多前知事による辺野古沿岸部の埋め立て承認を取り消したことで、県と政府の対立は鮮明となった。『日本近代文学の起源』や『世界史の構造』などの著書が世界各国で翻訳されている現代日本を代表する哲学者の一人である柄谷行人氏が、「辺野古新基地建設は日本国憲法9条に反する」として新基地建設に反対する考えを示した。沖縄の基地問題やなどについて聞いた。

■在日米軍と憲法
 -辺野古新基地建設問題についてどう考えるか。
 「反対だ。軍隊を置くことは、もともと憲法9条に反する。憲法9条を段階的に実現するためには、今ある米軍基地を削減すべきだ」
 「近年、日本で論じられている安保関連法は、法曹関係者の9割以上が憲法違反であると考えている。だが、私の考えでは、現状自体が憲法に反する。安保関連法は解釈改憲であるといわれているが、現状がすでに憲法9条の解釈改憲である。現状を肯定したいのなら、憲法9条を変えるべきだが、決してそうはしない。9条の改定を公約に掲げた政党は選挙で負けるに決まっているからだ」

■集団的自衛権
 -集団的自衛権について。
 「集団的自衛権というのは、もともと軍事同盟のことだ。軍事同盟といえば、みんな反対するだろうが、集団的自衛権というと意味がよく分からない。だから、ごまかしである。軍事同盟は怖いものだ。第1次世界大戦が小さな事件から世界戦争になってしまったのは、軍事同盟の連鎖があったからだ。軍事同盟があると戦争が世界中に及ぶ。例えば、これまで中東での戦争は日本と関係がなかった。しかし、今やそうではない。中東はロシアや中国とつながっている。軍事同盟によって、日本は世界戦争に巻き込まれる。しかし、集団的自衛権というと、何のことだか分からないので、今までと同じように考えている人が多い。今後、日本人が報復を受けることが多くなるだろう。今までは日本人は別、という信頼があった。特にアラビア語圏にあったが、それはもうなくなった」

■安保関連法
 -安保関連法が強行採決されたことについて。
 「私が驚いたのは、強行採決後にも、以前に劣らずデモがあったことだ。1960年の安保闘争の時、私の経験では、安保条約改定が自動成立した後、夏休みがあり、秋になるともう誰も政治の話をしなくなった。しかし、今回はそうではない。であれば、今後も違ってくるだろうと思う」
 「議会選挙があるのだから、デモで政局を変えようとするのは民主主義的でないという人たちがいるが、民主主義には両方が必要だ。デモも議会も、英語では『アセンブリ』という。日本語でいえば『寄り合い』だ。もともと同じものだ。だから、この次は、選挙をデモのようなものにすればよい。つまり、政党に頼るのではなく、選挙における争点をこちらが作るようにしないといけない。むろん、争点は憲法9条を変えるかどうかだ。政府や政党が決めた争点ではない。国民が決めた争点で選挙を行う。デモの続きを選挙でやる」

■沖縄の基地撤去
 -沖縄から基地がなくなることは可能だと思うか。
 「可能だ。ただ、日本国家に頼っていたらできないと思う。日米安保条約は日本国が締結したのだから。ゆえに、基地を撤去しないなら独立する、という覚悟で日本国家に迫るほかない。2014年にイギリスで、スコットランドの独立を問う投票があった。スコットランド人が独立を要求するのだから、歴史的にはるかに不当な扱いを受けてきた沖縄の人が言うのは当たり前だ」
 「私は『沖縄人は独立せよ』と言っているわけじゃない。ただ、独立に向かうほかに今の問題は解決することはできないと思う。そして、沖縄の独立は、次のことを目指すなら日本中、さらに世界中から熱烈な支援が得られるだろうと思う。それは『憲法9条』を沖縄で実行することだ」
 -具体的には。
 「国連で『われわれは自衛権を贈与する』と宣言する。それだけでよい。通常、戦争に負けた国は降伏して武力を放棄する。日本の憲法は敗戦後の占領下においてできたから、9条における戦力の放棄もそのようなものだと考えられている。しかし、憲法9条における自衛権の放棄は、国連に向けての自衛権の『贈与』である。贈与には、武力や金の力とは異質な強い力がある。贈与されたらお返しをしなければいけない、というのは未開社会の時代からある鉄則だ。例えば聖書で、イエスは『右の頬(ほお)を打たれたら左の頬を出せ』と言う。その場合、相手は左の頬を打てないだろう。戦争放棄を公然と掲げて実行することは、他の人たちにとって贈与になる。これは人類史において最も高邁(こうまい)なものだ」

■基地引き取り論
 -基地を受け入れるという本土の人も出てきた。
 「沖縄の基地を本土に持ってくることが解決になるのかな。そもそも無くすべきではないのか。だが、いずれにしても、今の安倍内閣や日米安保体制の下ではできない。安保条約は今や軍事同盟化してきた。そして、そのことは沖縄に一番響く。軍事基地があるところに、まず攻撃が来るのだから。しかし、差し当たり、このような軍事同盟の廃棄を目指すべきだ。それに関しては先ほど述べた」
(聞き手・安富智希)

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「贈与の力」とは
 柄谷行人氏は交換様式の観点から、世界構造を解明する。交換様式はA=贈与と返礼、B=支配と保護、C=貨幣と商品、D=Aを高次元で回復したもの-の四つに分けられる。AとDは贈与の力、Bは権力、Cは金力が主に支配している。贈与には未開社会の時代から、お返しをしなければならないという強い力がある。柄谷氏は、カントの描く「永遠平和」を実現する方法としてDに着目し、研究・発言を続けている。

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 からたに・こうじん 1941年兵庫県生まれ。哲学者。群像新人文学賞、亀井勝一郎賞、伊藤整文学賞など受賞。現在は、カントやマルクスなどを基に独自の思想論を展開。『トランスクリティーク』『帝国の構造 中心・周辺・亜周辺』など著書多数。