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【深掘り】法律と市民訴えに県、板挟み 沖縄戦の激戦地・本島南部の土砂、10月にも搬出へ 辺野古に使うかは不明、今後の焦点に


【深掘り】法律と市民訴えに県、板挟み 沖縄戦の激戦地・本島南部の土砂、10月にも搬出へ 辺野古に使うかは不明、今後の焦点に 沖縄県庁
この記事を書いた人 Avatar photo 呉俐君

 

 糸満市米須の鉱山開発のための農地転用について、県は11日、許可を決めた。同鉱山を巡っては、土砂が名護市辺野古の新基地建設に使われる可能性があるとして市民団体らが不許可を求めていたが、県関係者は「法律に照らして問題がなければ、認めるしかない」と行政対応の限界を明かす。県、国ともに南部地域の土砂が辺野古の埋め立てに使われるかは「決まっていない」とする中、今後は土砂の行方が焦点となる。

 「遺骨を埋め立てに使うことは人道上あり得ない。だが、人道上の問題と法律上の問題は違う」

 県が11日に正式に判断するのに先立ち、8月末に市民団体メンバーと面会した県関係者は行政としての苦悩を吐露した。

 南部土砂の問題は、辺野古新基地建設に向け沖縄防衛局が2020年4月に県に提出した軟弱地盤の改良に伴う設計変更申請で、南部地域を土砂採取の候補地として盛り込んだことが発端だ。

 外来種侵入防止のために県外からの土砂搬入を規制する県条例を回避する狙いがあるとみられ、沖縄戦で多くの犠牲者が出た激戦地の南部から新基地建設に使う土砂を搬出することに「犠牲者への冒涜だ」と強い反発が県内外で巻き起こった。

 県議会も戦没者の遺骨などが混入した土砂を埋め立てに使用しないことを政府に求める意見書を全会一致で可決した。

 一方、行政の対応は慎重だった。県幹部は「許可基準に照らして問題がなければ許可せざるを得ない。不平等な取り扱いはできない」と明かす。

 これに対し、市民団体は遺族公聴会の開催を求めるなど、踏み込んだ対応を求めてきたが、実現の見通しはない。

 別の幹部は「遺骨の混じった土砂を『埋め立てに使わないで』という気持ちは当然だ。県民の気持ちはわれわれとしても分かっている。ただ、使わせないための法理的な手段がない」と話した。

 辺野古新基地建設を巡っては、4日に出た最高裁判決で県の敗訴が確定し、県は大浦湾側にある軟弱地盤の設計変更申請について承認を迫られる立場となった。

 県関係者は「南部土砂と設計変更の可否は別の話だ」と強調するが、市民団体などから辺野古を巡る今後の県の対応に疑念も出ている。

 野党関係者は土砂を巡る県の対応について「法律にのっとり行政として判断した。埋め立て承認も、同様に法律に基づいて承認すべきだ。ダブルスタンダードは許されない」とけん制した。

 一方、県議会の意見書可決にみられるように遺骨などが混入した土砂を使うことには「慎重であるべきだ」との主張は与野党を超えて打ち出してきた経緯がある。

 玉城県政を支える与党県議の一人は「行政としては認めざるを得ないかもしれないが、残念だ」と声を落とした。

 ただ、辺野古新基地の訴訟は国の法解釈も「問題だらけ」だとし「無法状態の国に順法精神で応じる必要があるのか」と、強い態度で臨むよう訴えた。

 今後、もし県が設計変更を承認すれば、南部地域からの土砂調達が可能となる。

 一方、候補地のうち、実際にどこから調達するかは確定していない。防衛省担当者は本紙の取材に、具体的な調達先を検討するに当たって「遺骨の問題の重要さを踏まえる」と強調した。
 (知念征尚、佐野真慈、明真南斗)