岩に生えた 小さなコケがご飯
海岸に背の高い石灰岩があったら、1.5~2mくらいの高さを見てください。淡いピンク色で、表面に規則正しいギザギザをもつ、1cmくらいの巻貝がいませんか。それがコンペイトウガイです。
この貝が住むのは、満潮になっても海水が届かない岩の高い所。波しぶきがかかるだけなので「飛沫帯」と呼ばれます。そんな岩の表面にいて、うっすらと生える藻類を食べるようですが、ちょっと眺めているくらいではほとんど動きません。試しに海水をかけると、すごーくゆっくりと歩きました。雨が降ったらお散歩するのかな?
さて、多くの海の貝は、水中に卵を生みます。孵化した赤ちゃんはプランクトンとしてしばらく水中を漂い、小さな貝の形に成長してから、サンゴ礁や砂地などで暮らすようになります。でも、コンペイトウガイは波の来ない岩の上にいて、どうするんだろう?…実は、南太平洋にいるコンペイトウガイの近縁種が、卵胎生であるという論文がありました。親の体の中で卵が孵化し、その場で貝の赤ちゃんを生み出すそうなのです。もはや赤ちゃんを海に旅立たせないんですね。
色々な海岸を見ていくと、似たような環境なのに、コンペイトウガイがたくさんいる岩と全然いない岩があるのは、そのせいかな。では、最初のコンペイトウガイがどうやって来たのか、どこまで移動していくのか…ぜひ誰か、沖縄の海岸で研究してみませんか?
Vol. 69 コンペイトウガイ
Tectarius spinulosus
● 目:タマキビ型目 Littorinimorpha
● 科:タマキビ科 Littorinidae
● 属:イガタマキビ属 Tectarius
動画撮影:
コンペイトウガイ 2023年9月24日、26日(南城市 玉城海岸)
しかたに・のりかず 琉球大卒、東大大学院修了、博士(農学)。広島に生まれ、海に憧れて1981年に沖縄へ。専門はカニなどの甲殻類。生き物の形とはたらきの関係に興味がある。最近は、沖縄の貝殻を削って磨くシェルクラフトを行っている。
しかたに・まゆ 東洋大、琉球大卒、福井県立大大学院修了、東大大学院中退。東京に生まれ、20代半ばでサンゴ礁に興味を持ち、1993年に沖縄へ。2003年より、しかたに自然案内として県内で海の環境教育を始める。しかたに自然案内代表。沖縄の海辺を考える「里浜22」や、温暖化対策に取り組む「ゼロエミッションラボ沖縄」でも活動中。