公営住宅、狭き門 10年、入居かなわず


この記事を書いた人 外間 聡子
低所得で基準を満たしていても倍率が高いため、都市部では入居が難しい県内の公営住宅=本島南部

 本島南部の自治体で開かれた公営住宅の入居申し込み受け付け会。南部在住の40代女性は過去10年間、毎年足を運び書類を提出してきたが、倍率が高く当選したことはなかった。県営団地にも同じように申し込みを続けてきたが、入居はかなっていない。
 だが、ことしは申し込みを断念した。4月から長女が高校3年生になる。万が一、入居が決まれば、引っ越しと長女の進学が重なる。「教育費を考えると、引っ越し代までは出せない」と気持ちを押し込めるように話した。
 会社員で月給は手取り約15万円。離婚し、高校生の娘2人と2DKのアパートで暮らしている。家賃は月4万3千円。月給から光熱費やガソリン代、娘たちの交通費などを差し引くと、残るのは約3万円。1日千円以下で食費をやりくりしなければ、生活が成り立たない。月末には5キロ2千円の米を購入するのもためらう。過去には昼、夜で別の仕事を重ねるダブルワークを続けた。家賃は娘たちの児童扶養手当で賄う。「家賃が抑えられたら、他のものに充てられるのに」
 公営住宅への入居は死活問題だった。アパートは浴室とトイレが一体の造り。娘たちは、食事の間と居間、寝室が一緒になった部屋で暮らす。「娘たちが成長するにつれて不便さが生じている。もう少し広い部屋に住めたら…」と願う。
 気掛かりなのは進学費用だ。次女は私立高校へ進学を希望していたが、教育費のねん出が難しく公立高校に進路を変えてもらった。最近、「奨学金を借りるから、東京の専門学校に進みたい」と長女が夢を口にした。女性はとっさに「借金を背負うよ」と言ってしまった。「じゃあ、アルバイトするから」。長女はきっぱりと答え、部活動をやめてアルバイトを始めた。女性は切々と語る。「通わせたいと思うけど、お金をためきれなくて。頑張っても状況が改善しない。ジレンマを感じる」
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 公営住宅は低所得者向けに建設され、困窮者支援の側面がある。県内は持ち家比率48%(2013年、全国46位)で賃貸住宅に住む人が多い。低所得者も多く、都市部を中心に公営住宅への入居は狭き門だ。困窮世帯の受け皿として十分に機能していない。14年度の入居倍率はうるま市営住宅が26倍、那覇市営住宅が21・6倍、名護市営住宅が10・1倍に上る。県営団地も19・5倍と高い。
 家計のうち恒常的に支出される固定費の中で最も割合の大きいのが家賃。「県子どもの貧困対策推進計画(仮称)」素案は、ひとり親世帯の公営住宅への優先入居や、市町村と連携した賃貸住宅への家賃低廉化の支援を打ち出している。
 県母子寡婦福祉連合会の与那嶺清子会長は、県がひとり親世帯を対象に実施している、一括交付金を活用した認可外保育園の保育料補助の仕組みを例示する。その上で「民間アパートの家賃補助にも同じ仕組みを活用できないか」と要望する。
 沖縄大学の島村聡准教授は「住環境の整備は、最大の社会保障になり、生活保護の一歩手前のセーフティーネットになる」と強調する。困窮する子育て世帯の支援策に「公営住宅の部屋数には限界がある。行政が家賃を一部補助し、民間の賃貸物件の空き室を一定額で借りられる仕組みを整えてはどうか」と提案した。(子どもの貧困取材班)