社会
連載「希望この手に」

地域一丸「全員高校へ」 困窮3割も進学92→98%

「生徒支援委員会」で生徒の支援策を考える石垣中学校の教職員=4月26日、石垣市新川の同校

 石垣市立石垣中学校は「生徒全員を高校生にしてあげよう」という合言葉の下、高校進学率向上に取り組んでいる。対策を始めた2012年度は県平均を下回る92・0%だったが、13年度は93・4%、14年度は94・6%と、着実に上昇。15年度は県平均を超え、国平均に迫る98・1%まで達した。家庭の経済状況が厳しい生徒は全体の3割。この数字は毎年変わらないが、教職員、PTA、地域で生徒支援に徹し、成果を挙げている。
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 同校は週1回、「生徒支援委員会」を開く。議題は、問題行動がある生徒について。学年主任らが集まり、それぞれの生徒にどのような支援ができるのかを話し合う。他校で「生徒指導委員会」と呼ばれている会議だが、石垣中は「指導」ではなく「支援」と名前を変えた。髪の色や服装の乱れなど表面的な校則違反を指導するだけでなく、生徒が抱える問題を一緒に考え、支援しようという思いが込められている。
 わずかな言葉の違いだが、教職員の意識に変化を生んだ。教育相談担当の小野寺紀子教諭は「『駄目』と注意するのではなく、『何かあったの?』と声を掛けるようになった。指導の前にワンクッション置くことで、生徒も『実は…』と、悩みを打ち明けてくれる」と説明する。現在、授業中に校内をうろつく生徒はおらず、「学校全体が落ち着き、安心して授業が受けられる。その結果、学力も上がっている」という。
 「指導」から「支援」への名称変更を提案したのは、前教頭の市原教孝八重山教育事務所指導主事だ。「問題児なんていない。問題を抱えて困っている生徒がいるだけだ」と、市原前教頭は言う。家の電気、ガスが止められている生徒、包丁を持って暴れる父親がいる生徒…。複雑な家庭環境で育ち、家庭に居場所がない生徒を見てきた。「経済格差を教育格差にしてはいけない。この子たちで貧困の連鎖を断ち切ろう」。熱い思いが徐々に学校全体に広がった。
 担任や学習支援員だけでなく、音楽や美術の教員なども放課後の補習をするようになった。南和秀校長も、受験前は3年生向けの早朝講座で教壇に立つ。南校長は「毎日補習を受けた子がいた。最初は学力が厳しかったが、力を付けて志望校に合格した」と、学校を挙げての学習支援が実を結んでいることを強調する。
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 教職員の熱意はPTAや地域にも伝わった。下地盛喜PTA会長もその1人だ。以前は、校則が厳しく、ラインが入った靴下をはいただけで学校に入れてもらえない閉塞(へいそく)感に「ここは軍隊か」と反発した。だが、誰でも学校に入れるように校則が緩和され、学校の雰囲気が変わり出した。「全員を高校生にしてあげよう」という市原前教頭らの言葉に感化され、積極的にPTA活動に関わった。
 自身も同校出身。荒れていた時代で、恐喝や暴力から逃れるため、ほとんど学校に通えなかった。「今の子に同じ経験をさせたくない」という思いもあった。
 「水道が止まっている子もいるし、ばーちゃん家で暮らしている子も多い。だけど、家庭に口出しするのは越権行為。家庭の状況は救えないから、せめて学校だけでも楽しく過ごしてほしい」と話す下地会長。100人以上の生徒が出演する夏祭りを企画し、部活の遠征資金造成で企業回りも行った。「最初は理解されないこともあったが、今では企業の人も『何かあったらいつでも協力するよ』と言ってくれる」という。「全てわが子」の気持ちが、地域に広がっていると実感している。
 (子どもの貧困取材班)



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