広がる共感の輪 PTA発、柔軟な協力体制


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浦添城跡からの風が通る明るい縁側で昼食を囲む子どもたち。「カレーライス大好き」「トマトは苦手」など声が弾んだ=4月、浦添市のうらそえぐすく児童センター

地域ネットワーク  てぃーだこども食堂(浦添市)

 「できたよー!」。土曜日のお昼すぎ。浦添市のうらそえぐすく児童センターの調理室では、大人に見守られながら地域の子どもたちが料理を作る。エプロンを身に着けた子どもたちから声がかかると、室内にいた他の子どもたちが遊びの手を止め、浦添城跡が見える風通しの良い縁側に食卓を準備し始めた。にぎわう食卓のそばの道に顔見知りの子が1人で歩いているのを見つけると「何してるば。おいでよ」と誘う声が飛ぶ。
 センターでは2015年5月から毎週土曜日に「てぃーだこども食堂」が開かれる。家に昼食が準備されていない子や、子どもだけの「孤食」の子を含めたみんなで楽しめる昼食の場をつくってきた。児童センター、小学校PTA、市社会福祉協議会を軸に多くの人が関わる。「できる人が、できるときに」。時間がたてば次の誰かにバトンタッチできるよう「広がった細い糸のような網」で子どもの育ちを支える。
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 始まりは衣類だった。冬に暖かな服を着られない子どもたちがいることに気付いた浦添中学校区3小学校のPTAが、状態の良い衣類を集めた。学校や児童センターと連携して、必要な子にさりげなく提供できる体制を13年度に整えた。
 内部では当初、異論もあった。「困窮世帯など特定の子どもを対象にするのは、全体のために動くPTAの目的に反すると反対意見も出た」。浦添小PTAの梁裕之会長は振り返る。「地域に支えられた子は地域につばを吐くようなことをしない。非行など問題行動が減れば、周りの子どもにも良い」と説得した。さらに有志でこども食堂運営委員会を結成し、「衣」から「食」へ活動を拡大させた。
 浦添市には県内では珍しく全小学校区に児童センターがあり、市社協は全中学校区にコミュニティーソーシャルワーカー(CSW)を配置している。
 浦添中学校区のCSW・山城梢子さんの事務所はうらそえぐすく児童センター内にある。運営委に加わり、自治会や民生委員を回って協力を呼び掛けた。「自治会活動も高齢化しつつある中、子育て世帯とのつながりができて喜ばれた」(山城さん)。多くの自治会が食材を提供してくれた。婦人会の協力で、夏休みにはラジオ体操の参加者におにぎりを配る活動も実現した。
 運営委員の勤務先や、つながりのある企業にも「営業」し、食材の提供はどんどん増えた。市も15年度から助成を始めた。
 使い切れないほどの食材が集まったときには市のフードドライブを介して他の必要な人に渡したり、漬け物など加工品を作って地域に配ったりしている。「手間をかけて素材を加工し、誰かの役に立つ経験もできている」と児童センターの国仲恵子館長は活動の深まりを実感している。
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 運営委員が担当していた事務は今後、浦添小PTAが引き受ける方向だ。現在のメンバーは子どもの成長とともにPTAを「卒業」していくが、組織は続く。「思いを持った人が、無理なく続けられる仕組みを作りたい」と梁会長は話す。
 原動力は“地域愛”だ。困窮世帯の親たちも同じ地域で育った顔見知り。「自分にも厳しい時期があった。人ごととは思えない」と立ち上げメンバーの一人・根間正勝さんは言う。「できないことは周囲が手助けすればいい。しんどさに共感して『一緒に頑張ろう』と言える人がいれば温かい地域になる」。生まれ育った地域を良くしたいという思いがつながり、広がっていく。
 (子どもの貧困取材班)