連載「希望この手に」

高校進学81→95%に 全保護世帯の中学生に寄り添う

この春、高校生になった男子生徒の両親と談笑する那覇市の児童自立支援員の武藤恵理さん(中央)。困り感に寄り添い、信頼関係を築いてきた=4月27日、那覇市内

那覇市の児童自立支援員

 「今が最高。燃えている。大火事くらいに」。小学校から不登校だった男子生徒(16)はこの春、高校生となり、やる気を爆発させている。その姿は「人が変わったよう」(両親)。中2で出合った不登校支援の居場所が「ここに来ると力が湧いてくる」というかけがえのない場所となり、状況を激変させる大きな足掛かりになった。
 「勉強も一生懸命追い付こうとしたし、学校にも行きたかった。でもクラスメートから『頭が悪い』とばかにされ、顔に牛乳をかけられたこともある。学校は恐怖でしかなかった」
 人と話すのが苦手で、勉強はおろか自分の名前すら書こうとしなかった。心を許せる場所を見つけた男子生徒は、初めて学校でのいじめや胸の内を作文に記し、周囲を驚かせた。自信を取り戻した今、「体験を話して、いじめでつらい思いをしている人たちの光になりたい」と力強く夢を語る。
 生徒の心をほぐし、本人に合った居場所とつないだのは那覇市の児童自立支援員・武藤恵理さん(35)だ。生徒が中2の夏、学校から情報を得て自宅に通い始めた。「指導ではなく寄り添う」という姿勢に徹し、本人や親の希望を聞き出した。学校や居場所との調整も続けた。
 現在も毎月2回ほど家庭を訪問し、家族が抱える課題について一緒に考えている。
   ◇   ◇
 中学を卒業して5年後、成人した際には自立して社会と関われる人になるように-。那覇市は2010年から児童自立支援員を配置し、困難を抱える生徒の実態の把握に努めてきた。市内の保護世帯で暮らす中学生約300人全員を対象に学校訪問や家庭訪問。「全員」にこだわるのは、生徒や家族自身が問題の所在に気付かない事例も多く、課題が極めて見えにくいからだ。
 「課題や背景は一人一人違う」と困難の原因や本人の特性に応じて、民間の居場所や学習支援をする無料塾、治療などへとつなぐ。保護世帯の高校進学率は右肩上がりに上昇し、10年度の81・0%から14年度には95・1%まで改善した。
 県内外の若年者支援に詳しいNPO法人沖縄青少年自立支援センターちゅらゆいの金城隆一代表は「本人に合った場所が見つかるまで丁寧に探し続けるのは全国でも先進的だ」と高く評価する。
 保護世帯にはケースワーカーが付くが、那覇市では1人が110世帯を担当し、全ての子どもに気を配る余裕はないという。経済的な支援はできても、心を開けないまま生活改善に至らなかったり、精神的に孤立したままだったりと課題は残る。
 支援員たちはこうした家族に寄り添い、長年の苦労に対し共感を示す姿勢を徹底している。それでも信頼関係は一朝一夕には築けない。支援員らは「2~3年通ってやっと話してくれるようになった」「でも、何かあればすぐまた心を閉ざされてしまう」と難しさを吐露する。
 県内では内閣府の事業を受けて本年度、多くの市町村が支援員を配置する。実効性のある支援に向け、市自立支援班の山城忠信班長は「触法や妊娠などがあれば目立つ。大切なのは、目立たないが深刻な問題を抱えた親子をどれだけ発見し、必要な支援につなげられるかだ」と指摘。本年度は内閣府の事業で支援員を13人に増やし、小学生と高校生にも対象を広げたことに触れ、「誠実な人間関係構築には人手が不可欠だ」と強調した。
 (子どもの貧困取材班)



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