著者にとって3冊目の単著となる本書は、副題「ガマから辺野古まで」が示唆するように、沖縄戦から現在の嘉手納・普天間基地反対運動と辺野古・高江の新基地建設反対運動までを描いている。
「近代世界に生きる人類の生き方への問い」を投げ掛け続ける沖縄戦経験から戦後71年間を生きてきた人々は何を思い、何と闘ってきたのか。本書には歌や詩、語りや具体的なエピソードがちりばめられ、人々の経験により近づこうと、歴史を再現しようとする。「歴史の現場」に生きる一人一人の遭遇した出来事や悔恨、生き直そうとする希求、そして日々の取り組みが表情豊かに捉えられている。
一人一人の経験の断片が結びつき、運動という共同の現場を創り出していく過程を描写する筆致は、従来の運動史からは見えにくい関係の糸を紡ぎだす。1950年代の島ぐるみ闘争、60年代以降の復帰運動、95年以降の反基地闘争の再燃の間に脈々と波打つ、周縁化されてきた個々人のさまざまな企図や人々の出会いが創出した運動の交流、思想や実践の連なりを可視化し、歴史の地下水脈に潜った抵抗運動の記憶をよみがえらせる。例えば、辺野古、高江の闘争の根っこには金武湾闘争がある、と今日しばし言われることが本書の記述から具体的に見えてくる。
ふと立ち止まって考えたのは「沖縄戦後民衆史」を「愛の精神史」とする著者の結論だ。これは近代的な「愛」ではなく、「戦争の傷から立ちなおり、占領を終わらせ、分断とたたかいを終わらせるひとびとの、公共的な核や支え」だと著者は説明する。
「オール沖縄」とひとくくりにされる今日の運動に集う人々のたどってきた経験も、運動にかける思いも、多種多様である。だが差異や対立が生じるからこそ、現場には対話を通じた学びがあり、その中から共闘を可能にする契機が生まれる。「愛の精神」はそうした民衆の葛藤や闘争に裏付けられてこそ真実になることを本書は示唆している。
(成蹊大学アジア太平洋研究センター特別研究員・上原こずえ)
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もり・よしお 1968年横浜市生まれ。琉球大学大学院法学研究科修士課程、大阪大学大学院文学研究科博士後期課程修了。同志社大学〈奄美-沖縄-琉球〉研究センター学外研究員。
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