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<沖縄基地の虚実10>県民総所得の5% 基地収入にまだ誤解


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 3月に公表された帝国書院の高校用教科書にこんな記述があった。「県内の経済が基地に依存している度合いはきわめて高い」。このコラムを掲載した帝国書院の教科書は文部科学省の検定を経て、公表されている。つまり、この内容に政府が“お墨付き”を与えたことになる。この記述は事実に即しているか。公表されている統計を基に検証していく。

 3月18日に県が公表した県民経済計算によると、最新の数字である2013年度の県内総生産と県外からの所得を合算した県民総所得は約4兆1211億円。それに対して県が基地関連収入と位置付ける軍雇用者所得と軍用地料、米軍への財・サービスの提供などを合計すると約2088億円になる。県民総所得に占める基地関連収入の割合は13年度現在5・1%だ。
 県民経済計算と同日に公表された帝国書院教科書内のコラムでは「その経済効果は(中略)2千億円以上にものぼると計算されている」と金額に言及する一方で、その額が県民総所得の5%程度ということには触れず、「基地に依存している度合いはきわめて高い」と結論付けている。
 沖縄振興政策の変遷に詳しい沖縄大・沖国大特別研究員の宮田裕氏は「沖縄の経済が基地に依存していたことはあった。しかし、それは1950~60年代の話だ」と指摘する。
 琉球政府による71年度国民所得報告書によると、沖縄戦終戦から10年後の55年度は県民総所得1億1730万ドルに対し、基地関連収入は4820万ドルで41・1%を占めている。以降、57年度にピークの51・5%を迎えた後は日本復帰の72年度に15・5%、80年度に7・1%と県民総所得に対する割合は下がり、86年度以降、4~5%台で推移している。宮田氏は「5%という割合は依存と言えるか」と教科書の表現に疑問を呈する。
 検定結果公表後、事実に反するとの批判を受けて帝国書院は「基地に依存している度合いはきわめて高い」という記述を削除し、「県民総所得に占めるこれらの収入の割合は約5%である」と追記する訂正を申請し、文科省は4月11日付で申請を承認した。
 一方、帝国書院はこの訂正の中で、政府が基地と引き換えに「ばくだいな振興資金」を支出しているとの記述を削除し、米軍施設が沖縄に集中していることなどを理由に「毎年約3千億円の振興資金を沖縄県に支出している」との記述を追加した。
 この記述は、沖縄関係予算が他府県と異なる計上方式であることを無視するか、理解せずに書かれている。内閣府沖縄担当部局は各省庁の沖縄に関係する予算を一括して計上し、財務省に要求する仕組みになっているため、他府県と違って概算要求の段階で総額が出る。それが3千億円台なのだ。
 さらに沖縄関係予算を「資金」と表現していて、沖縄県が予算とは別枠の資金として、基地の対価として3千億円を受け取っていると、教科書を読んだ高校生を誤った解釈に誘導する内容になっている。
 帝国書院は訂正した理由を「誤解のある表現は改めなければならない。言葉足らずのところは改め、理解しやすい表現にした」と説明していて、文科省は「(訂正された文の)記述が誤りでないことが確認できた」などとして訂正を承認している。(当銘寿夫)