アニメが描く沖縄について、私が興味を持って調べ始めるきっかけとなった作品はいくつかある。中国からの核攻撃で沖縄が消滅しているという設定の『攻殻機動隊S.A.C.』や「海巨人(うみきょんちゅ)」が登場する『エウレカセブンAO』もそうだが、今回取り上げる『はいたい七葉』(2012―13)もその一つだった。沖縄ブームもここまで来たのかという思いとともに、沖縄独自のアニメが成立する可能性と条件について考える契機となった。
本シリーズは1話が3分弱のショートアニメで、当初は琉球朝日放送のみだったが、後に首都圏のテレビ局やアニメ専門チャンネルでも放映された。おばあが営む沖縄そば屋を手伝う中学生の孫娘・喜屋武七葉と高校生の姉、小学生の妹という3姉妹の家に、庭のガジュマルの木から現れたかわいいキジムナーの姉妹が居候し、ドタバタギャグが繰り広げられる。
前回の連載で言及したスピリチュアルな沖縄がここでも随所に描かれており、キジムナーのほかにも守護霊としてのシーサーが少女キャラとして登場し、ユタの血をひく女の子や死んだおじいの霊、マジムンなども加わる。全体を通しての大きな物語はなく、女子キャラ満載の萌えアニメだった。また「ウルトラQ」や「ウルトラマン」のパロディーで楽しませてくれる第20話は、金城哲夫へのオマージュなのだろう。
たしかに本作の沖縄は単なる水着回や逃避先ではない。また全編にネーティブなうちなーぐちがちりばめられ、制作協力および方言指導、声優陣には新垣正弘や松田るかをはじめ地元から多くが名を連ねていた。だがそこに盛り込まれているのは、いわゆる「沖縄あるある」的なエピソードや本土の沖縄通が喜びそうなネタが多い。
制作は東京のプロダクションで、監督も脚本も作画も本土の人が担当している。そのせいかどうかキジムナーはエルフ、マジムンはゴブリンのように描かれてとがった耳を持ち、絵のタッチやキャラの表情、ギャグの雰囲気も含めて、既存の日本アニメから逸脱する気配はなかった。
プロデューサーを務めた南西産業の畠中敏成は、本作以前にも『琉神マブヤー』の製作を手がけたことがある。『琉神マブヤー』の最初期シリーズには脚本の山田優樹、演出の岸本司、俳優の山城智二といった地元の才能が集まり、本土の特撮変身ヒーローの枠組みを利用しながら、沖縄独自の物語空間を垣間見せてくれた。その到達点から見れば、ドラマとアニメの違いはあるにせよ、『はいたい七葉』は沖縄に根ざす意味が浅いままに終わっている。
(世良利和・岡山大学大学院非常勤講師)