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山之口貘顕彰「第22回神のバトン賞」入賞作品 選考評


山之口貘顕彰「第22回神のバトン賞」入賞作品 選考評
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

佐藤モニカ みずみずしい作品多彩に

 22回目の「神のバトン賞」、今年もたくさんのみずみずしい詩に出合うことができた。この神のバトン賞は根強いファンが多い。毎年受賞作を読むのを楽しみにされている方が多く、詩が掲載されるや否や、私の元へも「この詩がいいね」などとたくさんの声が寄せられる。選考委員として、子どもたちの作品を最初に読むことができる幸せを感じている。猛暑日の続く中、子どもたちの作品に触れると、まるで冷たい川の水に触れるような心地がする。ここには、今の沖縄の子どもたちの心、そして感性がつまっている。今年の作品はいかがだろうか。

 小学校低学年の部・神のバトン賞は森田千博さん(宜野湾小2年)の「モノレールのった」、〈はやくて、ははは〉〈空とんで、あはは〉に、大好きな人と一緒にモノレールに乗る喜びが表れている。佳作は、下地海桜さん(白浜小1年)の「にゅうがくしき」、入学式での心の動きが素直に表れている。同じく、佳作の伊良波栄仁さん(宜野湾小2年)の「ぼくがすきなもの」、好きなものを述べることで、作者と作者を取りまく世界がこちらへ伝わってくる。

 小学校高学年の部・神のバトン賞は該当作なし。佳作は、大城利京さん(沖縄アミークス小4年)の「幸せ」、幸せとはなんだろうということを考えながら、綴(つづ)られた詩。同じく佳作の浦崎直生さん(城岳小6年)の「僕の生き物係」は家族から慕われているお母さんの姿を描いた、母を讃える詩だ。

 中学校の部・神のバトン賞は池田真歩さん(船浮中1年)の「家族の八年」、一見、4歳と12歳の写真撮影を淡々と描いただけの詩のように見えるが、この詩がすごいのは、詩に描かれていない未来の部分にこそある。読者に、未来の家族の姿を想像させる点であり、そこにこの詩の深さがある。佳作の松井洸太さん(佐敷中1年)「いつだって」は、ひたむきなヒマワリの姿が、一人の人生と向き合う姿と重なって、胸が熱くなる。同じく、佳作の渡久地ここなさん(佐敷中1年)「風の旅」は、風が主役の詩。オノマトペの魅力を味わいながら読んだ。

 高校の部・神のバトン賞は玉城隼之介さん(那覇高3年)「帰路」、ドラマの1シーンのように情景が浮かび上がる。雨に濡れて帰宅する作者の後ろ姿が読者の胸に残る。佳作の美里達季さん(豊見城高1年)の「坊主」は選考会でも話題になった作。自身で髪を刈る姿が印象的であるとともに(それこそが、この詩の最大の魅力!)自身の髪型に誇りをもっているのが伝わってくる。同じく佳作の塩川琥生さん「僕だけの夕焼」(北部農林高1年)は、七五調のリズムが魅力の一篇。池井昌樹さんの詩にも通じるような手触りがあり、また普遍性がある。〈橙色に 染まる中/今日の自分を 振り返る/家に着く頃 振り返る〉のゆったりとしたリズムと内容が見事にマッチしている。朗読した際のリズムが心地よく、詩を読む喜びを感じた。

 (歌人・詩人・小説家)


トーマ・ヒロコ 喜び、ユーモア 浮かぶ光景

 今回は小学生・中学生では人間以外の何かの気持ちになった詩が多く、高校生ではおじいさん、おばあさんについて書いた詩が多く印象に残りました。コロナ禍による制限から解き放たれて、コロナ禍以前の詩に戻ったように感じます。選考委員は独自の視点と表現の豊かさを両立させた詩を探して、応募作を読み進めていきますが、そのような詩はなかなか見つからず、今回、入賞した詩も入賞を逃した詩も、そんなに差はなかったです。入賞を逃した方も落ち込まずに、引き続き詩を書いてもらいたいです。

◇小学校低学年の部

 神のバトン賞「モノレールのった」森田千博(宜野湾小2年)リズムがあります。高架を走ることを「空とんで」と表現しているのがユニークでした。

 佳作「ぼくがすきなもの」伊良波栄仁(宜野湾小2年)好きなものを食べ物→ヒーロー→親の順で並べ、最後をお母さんで締めくくっているところがうまいです。

 佳作「にゅうがくしき」下地海桜(白浜小1年)〈ひいいー〉が印象的。とてもかわいらしい詩です。入学式で体育館に入った瞬間の緊張感が表れて、その光景が浮かんできます。

◇小学校高学年の部

 佳作「幸せ」大城利京(沖縄アミークス小4年)サッカーで外国に行くことを描きながら、さりげなく戦争にも触れ、外国の人たちと仲良くする喜びを描いています。こうやってみんな外国の人たちと仲良くできたら、戦争もなくなるのだろう、と思わされます。

 佳作「僕の生き物係」浦崎直生(城岳小6年)独創性があり、お母さんにはかなわないということがユーモラスに描かれています。

◇中学校の部

 神のバトン賞「家族の八年」池田真歩(船浮中1年)シンプルながら、時の流れ、家族が増えたことが読み取れる、さらっと読んでしまいそうですが、気になって立ち止まって味わいたくなる詩です。

 佳作「いつだって」松井洸太(佐敷中1年)「ひまわり」と書いていないけど、ひまわりのことだと伝わる詩。それぞれの連を歌詞のように揃えています。

 佳作「風の旅」渡久地ここな(佐敷中1年)風はあいさつしているのか、と新鮮に思いました。〈たくさんの生き物に会いたい〉という箇所も良かったです。

◇高校の部

 神のバトン賞「帰路」玉城隼之介(那覇高3年)ハンカチに敬意を示して傘をとじる、というところが素晴らしかったです。その前のハンカチを擬人化した、丁寧な描写も良かったです。

 佳作「坊主」美里達季(豊見城高1年)男女平等のくだりは疑問がありますが、とてもユニークな詩。髪形が自由になっていく世の中の流れの中で、坊主の魅力をいきいきと伝えています。特に2連が良かったです。

 佳作「僕だけの夕焼」塩川琥生(北部農林高1年)七五調を取り入れながら、書かれた詩。〈今日の自分を振り返る〉が良かったです。〈迷わずカメラに収めてしまう〉はいまどきで共感を呼ぶ箇所です。

 (詩人)