蘇鉄味噌(ナリミソ)に始まり、大みそかにどこの家でも食されてきた豚骨料理まで、懐かしい郷土の味が舌先に蘇(よみがえ)ってくるような一冊である。著者の三上絢子氏は奄美市で育ったそうで、父上は徳之島の出身である。
そういう私は本島南部の生まれで、母親は集落の女たちの中で麹(こうじ)を立て、米味噌、蘇鉄味噌をつくり続けた最後の一人だ。山へ分け入ってツワブキの茎を摘み、コトコトゆでて数日、川の水にさらしてつくるティバンシャ煮物(ニムン)もつくった。頑固に代々受け継いだ島の味覚を忘れまいとした人だった。三上氏の著書をめくると、島の女たちが母から子へ、子から孫へと伝えてきた、素朴でしかも長寿あやかり間違いなしの郷土の味が次から次へと、彩り鮮やかに紹介される。
第1部では、海山の豊富な食材を紹介、2部では昔からの郷土料理を目で楽しむことができる。沖縄各地とも共通した食材の数々、季節の料理、行事ごとの料理などなど、半世紀前までは島の各家庭でお盆に手作りしていた型菓子やリュピ(じょうひ餅)、浜下りのときのよもぎ餅、端午の節句のアクマキ。今ではもう、それらを自らつくる女たちもごくごく少数だろう。
市販されている現在のものとは異なり、家庭ごとの味や趣きがあった。陰暦9月9日にサツマイモをすりおろして入れ、発酵させたミキの甘酸っぱい我が母の味などを思い出しながら、お嫁殿に伝える機会をいくらかでもつくりたいもの。
奄美の女たちが愛情込め、健康と長寿を願いつつ、腕によりをかけて家族のためにつくってきたあの料理、この料理。年齢を重ねるごとにその良さと大切さが分かってくる。奄美、沖縄だけでなく、欧米化した都会人のぜいたくな食生活に、あるいは手軽さ一辺倒の折々にぜひこの本をめくり、素朴な島びとの暮らしぶりをまねてみる気持ちで、一品つくってみてはいかがだろうか。海に囲まれ、孤絶した島の中で先人たちが野草にさえ目を届かせ、慈しみ、守り続けてきたオバアの味を、再認識させられる貴重な一冊となっている。
(清原つるよ・おきなわ「星ねこ」編者)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
みかみ・あやこ 1937年、奄美市生まれ。大島高校、国学院大卒。同大学院日本文学研究科博士課程後期修了。現在は法政大沖縄文化研究所特別研究員、沖縄国際大南島文化研究所特別研究員。
南方新社 (2016-10-25)
売り上げランキング: 1,025,789