沖縄県名護市辺野古の米軍キャンプ・シュワブゲート前で開かれた県民集会で、翁長雄志知事が辺野古の埋め立て承認を「撤回する」と初めて明言した。最高裁で勝訴した政府は辺野古新基地建設を「終わった問題」(政府高官)と主張し、工事を着々と続けてきた。県民に諦め感や息切れ感、次の権限行使に踏み切らない知事への不信感も一部でくすぶり始めていた中、知事本人が「工事の入り口」(県幹部)である基地ゲート前で、改めて承認撤回という強い権限行使を表明したことで、新基地建設阻止に向けた求心力の回復を狙った形だ。
就任後初めて基地ゲート前の集会に参加した翁長知事。撤回表明は集会を主催した「オール沖縄会議」側にも事前に知らされておらず、同団体幹部は「県民の思いに応えてくれた。よく言ってくれた」と驚いた。
工事車両の出入りなどに対峙(たいじ)してきた抗議運動の“舞台”を訪れることには一定の混乱も予想された。知事の参加に当たって県は主催者と協議し、集会は「整然と行う」点を確認。翁長知事が「行政の長」として集会に参加できる状況を整えた。
◆「政治家・翁長」
知事周辺は「新基地建設が佳境を迎える中、多くの県民は今、行政の長だけではなく、政治家・翁長雄志を求めている」と話す。県幹部は集会前、「知事は諦めない、今後も権限行使を続けると県内外に伝える。それを力強く発信するのに、ゲートを背にすることが重要だ」と力を込めていた。
政府が進める工事に対し、知事は今月末に期限を迎える岩礁破砕許可の更新に応じないことで再び工事を止めることも視野に入れていた。だが政府は名護漁協に、工事に伴う漁業補償を支払ったことで現場海域の漁業権は消滅したと主張し、これにより知事への岩礁破砕許可申請は必要ないと主張する「新見解」を突如示す手段に出た。
「知事権限封じ」を図ることで、新基地建設阻止を掲げる知事を飛び越え、工事強行を図ろうとする政府。そうした状況への県民のいらだちを察知した知事は、ゲート前の集会で撤回を表明することで「座視していない」とのメッセージを込めたとみられる。
◆政府と神経戦
とはいえ県が行政機関である以上、実際に撤回に踏み切るには法的に妥当な根拠に基づくことが必要条件だ。この日のあいさつで、政府による岩礁破砕許可の不申請などの行為が「一つ一つ貯金として入っている」と知事が表現したことはその象徴と言える。県は一定の積み重ねを経て「違法性」に基づく撤回に踏み切る算段を描く。
今後の焦点となるのは、知事がどのタイミングで撤回に踏み切るかだ。
政府は知事が埋め立てを阻止する次の有力手段として「撤回」に踏み切ることを“織り込み済み”とみて、代執行や執行停止などの法的対抗策を検討している。
一方、政府は4月中にも辺野古の埋め立て工事を本格開始する見込みで、知事サイドはその“節目”の日程をにらむ必要もある。
防衛省関係者は、知事が埋め立て承認の「留意事項違反」だけを理由に早期に埋め立て承認の撤回に踏み切れば、それを正当化する法的な「材料」は乏しいとみて、裁判になれば「圧勝」し、県に損害賠償を求める根拠にもなるとみる。そのため国は、県が「材料不足」の状態で撤回するのを待ち構えているとも言え、神経戦が予想される。
昨年12月の承認取り消しを巡る最高裁判決で勝訴したことから、政府関係者は知事の撤回表明に「支持者向けのパフォーマンスだろう。裁判に負けることはない」と自信を見せる。
ただ岩礁破砕への対抗措置や撤回などのタイミング次第で、工事の遅れや名護市長選の人選作業などにも影響するとみて、県の動向を見極めながら対抗策を最終決定する考えで「後は知事がいつ撤回するかだ」と警戒感をにじませた。(島袋良太、仲村良太)