『句集 針突(はじち)』 小気味よさが生む安堵感


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『句集 針突(はじち)』大城あつこ著 現代俳句協会・私家版

 俳人夏井いつきの俳句ランキングコーナーを時々見ている。テレビ番組なので出演者は芸能人である。「参った」という感じの俳句もあり面白い。何よりも惹(ひ)かれるのは出演者と句作のつながりである。作者と表された俳句が「人物像」のひとかけらを露出し、結ばれるイメージとなって親しみを感じさせてくれる。凝縮され、選んだ「17文字」の世界が広がる。

 『針突』を鑑賞する。俳句歴22年の作者は少女期までを奄美大島で過ごし、沖縄本島に移住し半世紀余になる。タイトルの『針突』は古来から奄美大島や沖縄の女性の手に施されてきた入れ墨の習慣である。廃藩置県後にその伝統文化は否定され消えてゆく。奄美大島から沖縄まで広く分布、祖母のハジチを思い起こす。著者は最近まで40年余にわたり「農連市場」で勤めていた経歴を持つ。夜明け前の市場の活気と限られた数時間の勝負を身体に染みこませ続けてきたのである。

 「それまでは何をやってもつづかない私でしたが、俳句だけはずっとつづいてます」と、句集のあとがきで述べている。「席題」を与えられると15分前後で作句する俳句と市場の集中力との共通項を感じさせる。『針突』は五つの章に分かれているが、最初の章以外は時系列ではない。

 〈いのちの火は一瞬の逆上月下美人〉農連市場に向かう途中の深夜に月下美人に遭遇したのであろうか。しなやかな月下美人のイメージを反転させる俊敏な動きを感じさせる一句である。

 〈その先は聞きたくないの一人静〉たくましさと繊細さが混在する。群れて咲く「一人静」の孤立性を自己に投影する人懐こさが垣間見える。

 〈夾竹桃いつしか基地という歴史〉基地のフェンス沿いの夾竹桃はフェンスの属性となり、基地との境界線に咲き乱れている。

 著者は季語を巧みに使いながら、心中を外化し、結論づける作句法によって帰結を揃(そろ)えている。律儀な俳句の数々がリズミカルに小気味よく配置されている。読者にある種の安堵(あんど)感を与えてくれる。俳句を始める方々にもよき入門書になるような句集でもある。

(親泊仲眞・現代俳句協会会員)

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 おおしろ・あつこ 本名・大城敦子。1944年、鹿児島県奄美大島生まれ。94年WAの会入会。2001年第4回「花でいご賞」受賞。現代俳句協会会員。