ブラジルで沖縄県系2世の女性議員奮闘 8歳の息子失った悲しみ超え 暴力から女性、子ども守る


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亡き息子イベス君の写真と共に、平和と正義を訴えるNGOのポスターに収まる大田ケイコさん=2月22日、サンパウロ市内のNGO「イーヴェス・大田-平和と正義の運動」事務所

 沖縄県系2世のブラジル連邦議会下院議員、大田ケイコさん(60)がブラジル社会にまん延する暴力から女性や子どもたちを守ろうと奮闘している。1997年8月に誘拐殺人事件で長男のイベス君=当時(8)=を失った。以来、県系1世の夫、大田真孝さん(60)=豊見城市金良出身、サンパウロ市議会議員=と共に「『イーヴェス・大田』平和と正義の運動」を通してブラジル各地での講演や学校現場での啓発活動などを積極的に展開し、暴力の根絶を訴えている。

 ケイコさんの両親は戦前移民で、旧真和志村(現・那覇市)古波蔵出身。18歳でブラジルに移民した父親は農業に従事していた。母親とは見合い結婚で、11人の子どもをもうけた。ケイコさんは下から2番目の五女で、一家は農業に従事しながらサンパウロ州の奥地北西地方を転々と引っ越した。

 景気が悪くなったため1964年にサンパウロへ移住し、縫製業とフェーラ(露店市場)で生計を立てていた。ケイコさんは70年代に法学の大学を卒業し、82年に豊見城市出身の大田真孝さんと結婚した。

 ケイコさんは、2010年に連邦議会下院議員に初当選。14年に2期目の当選を果たす。日系人の女性としては初めての連邦議会下院議員。11年に提出された凶悪犯罪を優先的に司法当局に処理させる法案を巡り、同僚議員や支援者らと協力し、実現に尽力した。同法案は16年に連邦議会を通過し、法制化された。

 世論論査会社「Datafolha」が8日に公開した16年の調査によると、ブラジル国内で暴力の被害にあった16歳以上の女性は約440万人いる。16歳以上の人口の9%に相当し、暴言や精神的屈辱も入れるとその割合は29%にも上る。

 加害者の半数以上(61%)は知人で、夫や恋人、友人などが19%を占めた。被害者の約半数は暴力の被害を受けても被害届を出していなかった。セクハラ被害に遭った女性は40%に達した。そのうち、19%は職場での被害だった。

 こうした女性への暴力をなくそうと、15年に立ち上げられたのが連邦議会上院と下院合同の「女性への暴力に関する調査委員会」だ。同委員会で副委員長を務めるケイコさんは、日本の外務省の招待で13日に日本入りした。滞在した約1週間で日本での女性に対する暴力の実態や対策などについて知見を広めた。

 イベス君亡き後、議員になる前から続けてきたNGO「イーヴェス・大田―平和と正義の運動」では、学校などで「平和」や「許すこと」の大切さを子どもたちに伝えている。子どもたちを暴力から守るための新たな法案の提出を検討しており、日本での調査活動なども法制化に参考にするとみられる。(城間セルソ明秀通信員)