Vol.5 働き方改革〈上〉 変わるべきはいったい何? 新しい学びと入試改革に対応するMANALAB★


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

もっと深く、広く知る

 

 今回のMANALAB★は「労働」がテーマです。

 8月14日の琉球新報の紙面では、(1)2015年に過労自殺が起こった電通の事件、(2)ネット通販が人々に普及するに連れて負担が増す宅配の現場、(3)先進国7カ国で最低の水準にある日本の労働生産性の低さ、(4)人を育てる沖縄の教育現場の非正規の多さ、(5)早く帰宅することを望む主婦は4割で残業が減ることによる収入減を心配する人も多い―という5本の記事を紹介しました。

 「働く」にまつわる問題は、人々にとって、とても身近なもの。

 今回のMANALAB★はもっと深く、広く知るための記事を記者の視点・解説入りで紹介します。1つ1つの情報を読み取る時に、どんな考え方をするか、個別の情報をどのように関連づけて仮説や分析をしていくか。参考にしながら、みなさんも自分なりの視点で情報収集してください。

1.「働く」を考える入り口にするために、まずはアルバイトに関するニュースをチェック

記事:バイト事情 丸はだか

 高校生のみなさんにとって一番最初の仕事という体験は「アルバイト」という人も多いかもしれません。近年は、正社員に比べて安い賃金で雇うアルバイトに対して過重な労働をさせる問題が表面化し、「ブラックバイト」という言葉も登場しました。
 

東京オリンピックの会場建設現場でも過労自殺

記事:現場監督、過労自殺か
残業月200時間近く

 2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、スポーツ界、経済界などが盛り上がっています。しかし、そのオリンピックの会場となる新国立競技場の建設現場でも長時間労働が起こっていたことが明らかになりました。国民の盛り上がりとは裏腹に見えない場所で、犠牲が生まれているのかもしれません。

 

3.多くの人が長時間労働は恋愛にも影響すると考えている

記事:長時間労働、恋愛にも影
7割超「支障」、民間調査

 ある調査では、長時間労働は健康面だけでなく、恋愛にも影響すると考えている人が回答者の7割に上ったそうです。長い時間仕事をすれば、恋人と会う時間も減るだろうから納得できます。近年は以前に比べて、結婚する年齢が遅くなる「晩婚化」が進んでいます。恋愛にそそぐ時間がなくなり、結婚が遅くなると少子化にも影響するのでしょうか。
 

4.働き方改革したくても実際は、仕事が減るわけでもない

記事:時間減らしたくても仕事が終わらず

 上記の別の調査では、労働時間は短い方がいいと思っているにも関わらず、短くできない理由に「仕事量が多い」「突発的な予定や相手の都合に左右されたりする」と答えている人が多いです。パソコンなどが普及している現代、仕事量が変わらなければ会社にいて働く労働時間を減らしても、家でパソコンを開いて仕事をしたり、仕事の案件を連絡し合ったりすることになりそうです。

 また、この調査で労働時間を「今と同じでいい」「もっと長い方がいい」と答えている人の最多の理由が「今の給与水準を維持したいから」。少し、驚きです。8月14日の琉球新報MANALAB★(新聞版)で「日本の労働生産性は時間あたり、1人あたりで計算しても先進国7カ国中最低」という記事を紹介しましたが、労働者自身が「報酬または生産量=仕事に費やす時間」と考えているということでしょうか。
 

5.沖縄の労働生産性は、先進国最低の日本のなかで最も低い。

記事:労働生産性、沖縄は全国平均の7割
所得最下位の一因に

 ここからは、沖縄のニュースに着目します。日本の労働生産性はOECDの35カ国中20位だったという記事を琉球新報のMANALAB★(新聞版)で紹介しましたが、沖縄の労働生産性は日本のなかでも最も低いようです。観光業などのサービス業はものづくりをする製造業に比べて生産性が低いこと、離職率が高いことなどが、労働生産性を低下させる要因となっているといいます。
 

6.沖縄の求人の多くが非正規。

記事:求人の7割、非正規
ハローワーク県内

 職場で働く期限を決めて契約をするアルバイトや派遣社員などの非正規社員と、その職場で期間の定めを特にせずに働き続ける正社員。どちらが安心感がありますか? 給料はもちろん、保険などの社会保障が充実しているのはどちらでしょうか。

 沖縄県内の求人の多くが非正規というデータがあります。最近は価値観の多様化もあり、自由気ままに生活したいため「いつでも違う仕事にいけるように」と思う人もいますが、年をへて家族がいると「できるだけ安定した環境で仕事をしたい」と考える人も多いです。しかし、沖縄では正社員を募集している職場が少ない状況のようです。
 

7.沖縄の企業の6割が働き方改革をしているけど、
人員見直しや経営トップのメッセージはどれほどの効果か?

 この調査では、回答した沖縄県内の企業の56%が働き方改革を実施していると答えています。業務の見直しと同程度で経営トップのメッセージが上位にきていますが、どれほどの改革をもたらしているでしょうか?4.の記事とも関連して、気にかかります。

8.労働者の問題は「こどもの貧困」の問題にも関連する

 この2、3年、沖縄でも全国的にも、こどもの「相対的貧困」の問題がクローズアップされるようになりました。

 しかし、よく考えると、子どもの貧困とは、その子どもが過ごす環境の問題であり、親の収入、労働の問題と直結します。それは、データでも示されるようになりました。

 この記事からは、労働問題が「こどもの貧困」という別の問題に派生することが読み取れます。

 

 ここまで、さまざまな記事を見て、いろんな仮説を立ててきました。

 高校生のみなさんは、まだ実際に働いたことがない人も多いと思いますが、以下のような記事も、情報として吸収しておきましょう。

9.柔軟な働き方の事例として「テレワーク」があります。

 一方で、テレワークができない職種もあります。その場合は、労働環境を改善していったらよいでしょうか?
 

10.求職者は業界によって、重視するものが違っている

 仕事を探している人の視点に立った記事を見ても、やはり、重視するものは業界によってさまざまなようです。

 

 以上。一記者の情報収集とその時に考えていることをここで紹介しました。みなさんも自分の頭のなかで仮説を立てたり、想像を膨らませながら、ニュースや情報を見るくせをつけましょう。

 

ニュース検索のヒント
検索窓にキーワードを入力!

 ちなみに今回、この記事で紹介したニュースはすべて琉球新報のサイト内で探した記事です。琉球新報のオリジナル記事のほか、共同通信、毎日新聞の記事も表示されました。

 検索の仕方は、琉球新報のニュースを載せているWEBサイトトップの右上にある虫眼鏡マーク「検索」を活用しました。「働き方改革」「労働環境」などの言葉を入れて検索し、表示された記事をチェック。

 ほとんどの新聞社のサイトにサイト内検索機能があるので、活用してみてください。インターネットは誰もが情報を発信できる便利さの一方、信ぴょう性の低い情報も混ざっています。学習や入試の時事問題対策で情報を収集するときは、サイト内検索を活用することをおすすめします。

プレビュー
キーワード

 

労使合意

 労働者と使用者(雇用主)との間で労働条件などに関することで合意をすること。

宅配危機

 ネット通販の拡大で宅配便の荷物は増え続け、さらに再配達など客の利便性向上に応えるため、ドライバーは長時間労働で疲弊し、荷物を運べなくなること

集配拠点

 荷物を集めたり配ったりする拠点

労使交渉

 労働者と使用者が労働条件などについて交渉すること

繁忙期

 業務が忙しくなる時期

電通

 国内最大手の広告代理店。広告代理店とはさまざまなメディアに掲載される広告を扱う会社。

過労自殺

 仕事による過労が原因となり大きなストレスを受け、疲労が蓄積され、場合によっては、うつ病を発症し、自殺に至ること。

労働局

 厚生労働省の地方支分部局の一つで、全都道府県にそれぞれ設置されている。労働相談や労働法違反の摘発、労災保険・雇用保険料の徴収、職業紹介と失業の防止などが主な業務。

労働基準法

 憲法27条「労働権」の規定に基づいて、1947年に制定された。労働者のための保護法。8時間労働制、週休制など最低限守られるべき条件を規定する内容となっている。

家宅捜索

 検察官・警察官などが、職権に基づいて、刑事事件の犯人や証拠物件をその住居に入って捜し求めること。

厚生労働省

 社会福祉、社会保障および公衆衛生、また労働に関する行政を主管する国の行政機関。2001年の中央省庁再編で、旧厚生省と旧労働省を統合して設置された。

 

書類送検

 犯罪容疑者の身柄を拘束することなく、事件に関する調書だけを検察庁に送ること。

労務

 企業で、労働力の使用・管理に関する事務。

 

立ち入り調査

 労働法令違反の事実を調査するために、労働基準監督署の監督官が会社に行き、立ち入り調査を行うこと。

三六協定

 労働基準法36条に基づく労使協定で、「さぶろくきょうてい」と呼ばれることが多い。会社が法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えた時間外労働を命じる場合、必要となる。労組などと書面による協定を結び、労働基準監督署に届け出る。届け出をしないで時間外労働をさせると、労働基準法違反(6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金)となる。

強制調査

 強制手段を用いた捜査のことをいい、被疑者の身柄を確保するための逮捕・勾留、証拠物を入手するための一定の場所の捜索、証拠物の押収などがある。原則として裁判官が発付した令状に基づいて行う。

日本生産性本部

 経営者、労働者、学識経験者の三者で構成する非営利法人。雇用の増大、労使の協力・協議、成果の公正分配からなる運動三原則を掲げて調査や研究、情報の発信などを行っている。

労働生産性

 投入した労働力(人の数や時間など)に対して、どれほどの価値、生産量を生み出せたかをはかる指標。たとえば製造業では、同じ生産量を生み出すために人が製品をつくるよりも、ロボットなどを投入して自動化すると労働生産性が上がる。

主要先進7カ国

 G7(ジーセブン)と呼ばれるときもある。フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、日本、イタリア、カナダのこと。

臨時教員

 臨時的任用教員のこと。教員免許状を持っている人が、期間限定で教員を務めること。

地方公務員

 地方公共団体のために働く公務員のこと。都道府県や市町村ごとに教育、治安、行政サービスの分野で雇われる。具体的には教員や警察、役所職員など。地方公務員法は、地方公務員の待遇や地位を定める法律。

教育委員会

 教育に関する行政について権限をもつ委員会。委員が選ばれる任命制。学校の設置や廃止、教員の任免、教科書など教育用図書の採択などを扱う。

任用

 ある人に特定の職務を任せるために採用すること。

教員定数

 地方公共団体で採用する教員について規則などで決められた数。

長時間労働

 長い時間働くこと。最近では、「長時間労働せざるを得ない状況」という否定的な意味をこめた用いられ方をすることが多い。

働き方改革

 電通の過労自殺事件をきっかけに、長時間労働などの過重労働を見直す必要性が声高に言われるようになり、始まった労働環境改善に向けた制度改定やその議論のこと。2016年9月から政府は「働き方改革実現会議」を開いており、少子高齢化や、価値観の多様化、経済成長の変化を受けて、労働をとりまく状況を変えていこうと試みている。

 使い方

★ 第2、第4月曜日の琉球新報「MANALAB★」のページを切り抜いてスクラップ。
★ 琉球新報WEBサイト内「MANLAB★」で、記事にあるキーワードや、さらに深く・広く知るためのニュースをチェック!

プレビューを使ってチャレンジ

★ 自分の意見をノートにまとめる
★ 小論文を800字以内で書いてみる
★ グループディスカッションやディベートの題材に使ってみる
★ 各テーマの課題を解決する提案をプレゼンテーションにして、発表する