産経新聞は8日付朝刊で、昨年12月1日に沖縄自動車道で発生した多重衝突事故で、米海兵隊曹長が日本人を救出して人身事故に遭ったと報じ、救出行為を報じない沖縄メディアを批判した記事について、「事実関係の確認作業が不十分」として謝罪し、記事を削除するとともに検証記事を掲載した。琉球新報は1月30日付紙面で、米軍が救助行為を否定したことなどを伝えていた。
8日付産経新聞1面に掲載された「おわびと削除」は「取材が不十分」とした上で、昨年12月12日付朝刊3面の記事と同年12月9日にインターネットで配信した産経ニュースを「削除」するとした。その上で「記事中、琉球新報、沖縄タイムスの報道姿勢に対する批判に行き過ぎた表現がありました」としている。
1面には乾正人・産経新聞社執行役員東京編集局長の談話が掲載された。乾編集局長は「沖縄県警への取材を怠るなど事実関係の確認作業が不十分であったことが判明しました」と説明。「琉球新報、沖縄タイムスに対する行き過ぎた表現があったにもかかわらず、社内で十分なチェックを受けずに産経ニュースに配信、掲載されました」と説明した。
その上で、「事態を真摯(しんし)に受け止め、再発防止のため記者教育をさらに徹底するとともに、出稿体制を見直し、記事の信頼性向上に努めていく」とし、事故に遭った関係者と沖縄2紙、読者に謝罪した。3面の検証記事では、曹長の行動が「ネットで賞賛されている」との情報を得て、救助を伝える曹長の夫人のフェイスブックや米NBCテレビの報道を確認。米海兵隊には取材したが、県警には取材しなかったとしている。
琉球新報が1月30日に「米軍が救助を否定している」と報道したことを受け、産経新聞は再取材し、2月1日に米海兵隊から「私たちの聞き取りでは実際に救出活動を行ったということは確認できなかった」などと回答を受けたという。
横転した車両に乗っていた日本人男性が代理人の弁護士を通じ「米軍関係者に救助された記憶はない」と説明したことも紹介した。
■わびた姿勢に敬意 琉球新報社の普久原均編集局長
「米海兵隊曹長の日本人救出」に関する今回の報道で、8日付産経新聞がきちんと事実を検証し、取材の不十分さを認めて、率直にわびた姿勢には敬意を表する。今回の件に関して、琉球新報社は「事実の報道に徹する」という基本姿勢に基づき慎重に取材を進めてきた。産経新聞が報じたように、米海兵隊曹長が日本人運転手を救助した後、事故に遭ったという事実があれば報道し、救助した事実がなければ産経新聞の報道の誤りをただすという方針で取材した。関係機関を取材した結果、曹長による救助行為を米軍が否定し、沖縄県警も確認していないことが判明したため、1月30日付本紙の報道に至った。琉球新報は今後とも「事実の報道に徹する」という基本姿勢を堅持する。
■おわびは評価 沖縄タイムス社の石川達也執行役員編集局長
産経新聞は、沖縄県警への取材を怠ったと認めた上で、沖縄タイムスと琉球新報の「報道姿勢に対する行き過ぎた表現があった」として、記事を削除、おわびした。報道機関として評価する。表現の自由は言論機関の根幹ではあるが、事実関係の取材が不十分なまま、2紙に対し「メディア、報道機関を名乗る資格はない。日本人として恥だ」などの表現を用いたことは不適切だったと思う。沖縄タイムスは今後も事実に基づいた報道を徹底する。