尊厳回復へ理解訴え ハンセン病 きょうから市民学会 関係者インタビュー


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 全国のハンセン病の回復者や支援者らでつくる「ハンセン病市民学会」の第14回総会・交流集会が19、20日、県内で7年ぶりに開催される。ハンセン病問題と沖縄の過重な米軍基地負担を「差別」という観点から意見を交わす。19日は午後1時から、那覇市の県男女共同参画センター「てぃるる」で総会や交流集会がある。20日は午前10時から、名護市の沖縄愛楽園で県内から244人が原告となっているハンセン病家族訴訟に関する報告など四つのテーマで分科会が開かれる。分科会で進行役を務める関係者にハンセン病問題について話を聞いた。(聞き手 謝花史哲)

教育現場で記憶伝えて 吉川由紀さん 愛楽園交流会館企画運営委員

吉川由紀さん

―ハンセン病を語り継ぐことの現状について。

 「2005年から07年まで沖縄愛楽園で証言集の編集委員として働いた。その時と比べ、体験者が圧倒的に減り、体験の継承が難しくなっている」

―ハンセン病問題は国が過ちを認めたが、当事者が語るのを恐れている現状もある。

 「ハンセン病体験者が受けた強制堕胎や断種などは語り難いことだ。一方で、沖縄は二度と戦争が起こらないよう民衆の戦争体験を聞き取る作業を長年積み重ねてきた。沖縄戦でも『集団自決』(強制集団死)や日本軍の住民虐殺などすぐには語れないことがあったが、記憶は継承されている。その土壌がある沖縄だからこそ、ハンセン病体験者の言葉を語り継ぐこともできるはずだ」

―今後必要な取り組みは。

 「ハンセン病問題が抱える差別や偏見は誰もが加害者になったかもしれないという場面を突き付ける。なぜこのようなことが起きているのか、沖縄戦を考えるようにハンセン病問題も教育の現場で伝えてほしい。ハンセン病の現実を普段の中で話せる一歩となる」

―市民学会で話し合うことは。

 「継承の現場の成果だけでなく、悩みなどを共有したい。全国では愛楽園のように交流会館が整備されてきた。しかし体験者と非体験者をつなぐ人がいないと意味がない。体験者が減る中で心を通わせ記憶を自分のものとして残せるかが大事だ」

家族への国謝罪が必要 林千賀子さん 弁護士

―ハンセン病家族訴訟の経緯は。

 「患者本人は訴訟で一定程度救済された。しかし誤った国策で家族もまた被害を受けた。隔離政策の根拠となった『らい予防法』廃止から2016年で20年が経過しようとする中、家族の被害を司法の場で訴える必要性が叫ばれた。患者の訴訟で国の政策の誤りが認められたにもかかわらず、社会に差別や偏見は根強く残っている。いま一度、この問題を社会に問うことが求められた」

―訴訟の意義は。

 「訴訟では隔離政策で(1)家族も偏見・差別を受ける地位に置かれたこと(2)家族関係の形成を阻害されたこと―を家族原告の共通被害として訴えている。家族の被害が不問にされたままでは真のハンセン病問題の解決は望めない。国の法的責任を明らかにし家族への謝罪も勝ち取る必要がある」

―市民学会では家族訴訟がテーマの一つとされる。

 「家族に患者がいるというだけで今なお偏見差別を恐れて生活しなければならない精神的負担など、改めて家族の被害を伝えるとともに、『家族』という人間関係の深淵(しんえん)さについても考えたい。分科会では原告の家族に率直な話を伺う。家族の語り合いで、この問題をより具体的に知ってもらえればと思う」

―真の被害の回復に何が必要か。

 「国だけでなく、われわれ社会の責任も問われているのが、ハンセン病問題。『個人の尊厳』の問題として捉えることが不可避だ」