『沖縄は孤立していない』 植民地主義と闘う思想の流星群


社会
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『沖縄は孤立していない』乗松聡子編著 金曜日・1944円

 沖縄は孤立している。軽んじられ、虐げられ、踏みつけにされ、無視され、基地と暴力を押し付けられる。同じ人間が住んでいる島と認められない。悲痛の叫びは空(むな)しく宙に彷徨(さまよ)い、抵抗は暴力的に抑圧され、「沖縄に寄り添う」と虚言に欺かれ、見えない壁に押し潰される。沖縄はまさに孤立している。

 沖縄を孤立させてきたのは誰か―ヤマトの民だ。保守も革新も、右翼も左翼もない。護憲も改憲もない。戦後民主主義と平和主義を謳歌(おうか)してきた私たち、ヤマトの植民地主義者の総体が沖縄を都合よく「消費」してきた(評者もその一人に過ぎない)。

 乗松聡子はこの責任を胸に刻み、決して逃げ出すことなく、暗黒の軍事帝国宇宙のただ中で、微かに、だが、懸命に煌(きら)めいている。辺野古基地建設に反対し、米軍基地撤去のために多様なアプローチを続けてきた沖縄の先達や、オール沖縄の闘いに励まされながら、乗松は日米同盟という史上最悪の軍事帝国に挑戦状を叩(たた)きつける。歴史への責任、正義への責任、そして植民地主義者でありたくない自分自身への責任をエネルギーに。

 乗松の煌めきは怒りとなり、炎となり、流星となって軍事帝国を貫き、植民地主義に抗する世界各地の知性に遭遇した。必然の出会いが沖縄でスパークする。ジョン・ダワー、ダニエル・エルズバーグ、ノーム・チョムスキー、オリバー・ストーン、ピーター・カズニック、ガバン・マコーマック、アン・ライト、ハーバート・ビックス、リチャード・フォーク…ジャーナリスト、学者、平和運動家、先住民活動家。乗松という魔法の指揮棒と、30人余の行動する思想の流星群が織りなす光のシンフォニーは、希(まれ)な望みを希望に成型し、未(いま)だ来ていない未来を確かなものに予感させる。

 南北会談と米朝交渉の始まりが、ベルリンの壁崩壊に次ぐ歴史のページェントを開いて見せようとしている、まさにこの時、乗松の確信は沖縄を蔽(おお)う暗雲を吹き飛ばす。

 「沖縄に基地はいらない。基地のない沖縄を世界が願っている。沖縄は孤立していない」

(前田朗・東京造形大学教授)

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 のりまつ・さとこ 東京都出身。ピース・フィロソフィーセンター代表。「アジア太平洋ジャーナル ジャパンフォーカス」エディターとして、人権、米軍基地、核問題などについて日英両文で、研究・執筆活動を行う。著書多数。

 

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