政府の辺野古土砂投入通知 選挙にらみ既成事実化 知事、改めて「承認撤回」


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 名護市辺野古の新基地建設を巡り、政府は12日、埋め立て土砂を8月17日以降に投入する計画を県に通知した。9月に控える名護市議選や秋の知事選に影響が生じないよう、早めに既成事実を築く狙いも透ける。一方、翁長雄志知事は通知と同じ日に会見し、前知事の埋め立て承認撤回を「ちゅうちょすることなく行う」ことに改めて言及した。移設問題がかつてない重大局面を迎え、県と政府の攻防が再び激化している。

1時間40分前

 12日午後、沖縄防衛局が埋め立て着工を先に伝えた相手は、県ではなく名護市だった。市に防衛局から電話があったのは午後3時20分ごろ。土砂投入場所を示した地図を送り、着手予定日を丁寧に説明した。渡具知武豊市長は「伝える順番に関して、こっちが早いから、というのは特に関係ない」とするが、防衛局と名護市の蜜月ぶりがうかがえる。

 新基地建設に反対していた前市政では、移設手続きに関し連絡がないこともあった。権限を持つ県に通知する前に、協力者にあらかじめ手を回しておくような防衛局の対応は、これまでと対照的だ。

 結局、県に通知があったのは名護市への連絡から約1時間40分後の午後5時ごろだった。

争点外し

 工事を進める上で、政府がまず念頭に置く政治日程は9月9日投開票の名護市議選だ。2月の市長選で当選した渡具知市長を支える市議は現在市議会で少数派。市政運営に苦慮する場面が続いており、市議選は基地関連事業を進めたい政府にとっても関心事となっている。選挙まで3カ月を切り、限られた期間で早めに埋め立てに着手し争点化を避けたい思惑がある。

 防衛省関係者は県への通知が済んだことについて「あとは時間の問題だ。知事がただちに撤回するとは考えにくく、台風で工事が遅れることが懸案になる」と語る。

「亀裂」修復

 翁長知事は12日の記者会見で、実施に向けて署名活動が始まった県民投票について「意義がある」と支持を表明した。署名活動の状況は県議会各会派や各団体の出だしが遅れ、県民への広がりも鈍い。そのため知事自らが「火付け役」となる必要に迫られた側面もある。

 一方、翁長知事は会見で「撤回の判断は県民投票の時期やその結果に縛られるものではない」とも発言した。県民投票に対する考え方は翁長知事を支援する勢力間で濃淡があり、実施に難色を示し早期撤回を求める支持層にも配慮した形だ。県民投票を巡り生じた「亀裂」を修復する狙いもありそうだ。

 県幹部の一人は「県民投票が途中で挫折したり、投票率が低かったりすれば政府を喜ばせる結果になる」と危機感をにじませる。署名集めの期限は残り40日となっている。
 (當山幸都、阪口彩子、明真南斗)