米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の新基地建設を巡り、8月中旬に埋め立てに着手する政府と、前知事の埋め立て承認「撤回」に踏み切る県の攻防が激化している。その一方で、政府にとって移設工事を進めるためには名護市との「協議」や市の「許可」を得る手続きを要する。政府は2月の名護市長選直後から、辺野古移設に反対しない渡具知武豊市長に同意を取り付けるための準備を進めている。
名護市辺野古の大浦湾では、護岸の建設工事が着々と進み、海域の護岸の一部が閉じようとしている。工事関係者は「護岸が閉じたら、どんどん土砂を投入する。もう後戻りできない」と話しており、8月中旬の土砂投入は、20年以上続く移設問題の大きな節目となる。
仲井真弘多前知事は、在任中に仮設道路や辺野古沖の護岸建設に関する追加申請を承認し、現在まで工事が進む根拠となった。移設に反対していた名護市の稲嶺進前市長は、市長権限を行使して沖縄防衛局からの協議や申請に応じてこなかった。本体工事に必要な作業ヤード整備予定地の辺野古漁港の使用許可もその一つ。稲嶺前市長が申請に応じなかったため、工事を進めたい防衛局は名護市の関与を回避しようと工法を変え、移設を容認していた仲井真前知事に申請した。
仲井真前知事は作業ヤード代替地としての仮設道路や、中仕切り護岸の追加申請を退任4日前に承認。完成した仮設道路や中仕切り護岸は現在、毎日資材を積んだダンプカーが往来し、工事の進ちょくを支えている。翁長雄志知事就任後は、県と名護市両方が移設反対の立場で協力し、埋め立て承認取り消しやその後の和解、裁判などもあり、工事が進むのに一定の歯止めがかかっていた。
いくつかある市長権限の中でも、防衛省が工事を進める上で不可欠なものと重視するのが、美謝川の水路切り替えだ。防衛省関係者は「特に重く、避けられない手続き」と解説する。
美謝川は名護市管理の辺野古ダムからキャンプ・シュワブ内を通り、大浦湾へと流れ出る。移設工事により河口部分が埋め立てられることから、政府は名護市の条例に沿って、流路を変更するため市と「協議」する必要がある。
渡具知市長の就任で、政府にとっては手続きを進めやすい環境ができた。加えて、政府は辺野古崎の南側の海域から先行して埋め立て工事を進めるよう順序を変えたため、美謝川の切り替えに関する「協議」までに要する時間的余裕もあるとみられる。防衛省関係者は「丁寧に説明していく」と慎重に対応する考えを示す。
一方の渡具知市長は「法令にのっとって対応する」として、今後、手続きを進める姿勢を見せる。渡具知市長のゴーサインで今後、工事が進むことになり、渡具知市長を全力で支援した安倍政権は秋の知事選をにらみ、次々と移設計画を加速させる見通しだ。(當山幸都、阪口彩子、清水柚里)