沖縄県と国、新基地巡り対立鮮明 知事、東アジアの変化強調 慰霊の日・戦没者追悼式


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沖縄全戦没者追悼式で、献花に向かう安倍首相(手前左)を見つめる沖縄県の翁長雄志知事(同右)=23日午後、沖縄県糸満市の平和祈念公園

 戦後73年目の「慰霊の日」、沖縄県の翁長雄志知事は「平和宣言」で、米朝首脳会談で合意された朝鮮半島の完全非核化などに触れ、名護市辺野古の新基地建設計画を再考するよう改めて求めた。安倍晋三首相はあいさつで辺野古新基地建設問題には触れず、その後の記者団の取材には米軍普天間飛行場の辺野古移設こそが「負担軽減」だと強調した。政府は8月中旬に埋め立て工事に着手する予定だ。一方の県は22日、沖縄防衛局に工事停止を求める行政指導文を送ったばかり。安倍首相は23日も工事を続ける意向を表明し、県と政府の対立がより鮮明になった「慰霊の日」となった。

 県関係者によると、知事が「平和宣言」で特にこだわったのは、朝鮮半島の非核化に向けた動きだ。今月12日の米朝首脳会談以降、北朝鮮が「敵対的」と批判してきた米韓共同訓練を米国が中止し、北朝鮮側に非核化を着実に進めるよう求めるなど、目まぐるしい動きが続く。

 知事は平和宣言で、辺野古の工事を進めることは「沖縄の基地負担軽減に逆行しているばかりでなく、アジアの緊張緩和にも逆行している」と批判した。県幹部は「世界はこれほど動いているのに、日本政府はなぜこれほど変わらない姿勢で基地建設を進めるのか。変わらないなら沖縄の負担が続く。知事はそれを発信したかった」と解説する。

 追悼式で知事が「辺野古に新基地建設を造らせないという私の決意はみじんも揺らぐことはない」と述べた後、「追悼のことば」で県遺族連合会の宮城篤正会長が「米軍普天間飛行場の早急なる移設を熱望すると同時に、戦争につながる新たな基地建設には遺族として断固反対する」と述べた後には、参加者から拍手が響いた。その多くは遺族たちの席からだった。

 翁長知事の平和宣言について、県政野党の自民党幹部からは「今回は去年に比べて政治的すぎた。追悼式の場でああいった宣言をすべきではない。週明けの県議会で取り上げる必要がある」などの批判も上がる。一方、県幹部は「辺野古について知事がトーンダウンすることは一切ない。その決意の表れだ」と強調する。

 知事が政府に辺野古移設計画の再考を強く求めた中、安倍首相は式典後、記者団の取材に「辺野古に移ることで飛行経路が海上に移り、学校はもとより住宅の上空は飛行経路とならない。安全上の観点からも負担軽減に資するものがある」と反論した。首相は他にも西普天間住宅地区の跡地利用が進んでいることや、米軍北部訓練場の過半の返還が、沖縄の本土復帰以来「最大の返還」だとも述べ、政府の負担軽減への努力を強調した。

 一方で知事は平和宣言で特に力を込めて読んだ文言がある。「戦後73年を経た現在でも日本の国土面積の0.6%にすぎないこの沖縄に在日米軍専用施設の70.3%が存在し続けている」

 沖縄への基地集中が変わらない現状を強調し、「負担軽減」を巡る政府との認識の違いは鮮明だった。

 式終了後、県幹部は「名護市では流弾事故も起きたばかりだ。沖縄では同じことが繰り返されている。首相は『沖縄に寄り添う』と言っていたが、言葉が心に響かなかった」と話した。 (島袋良太、吉田健一)