21日に那覇市の桜坂劇場で公開されるドキュメンタリー映画「沖縄スパイ戦史」の三上智恵、大矢英代両監督に作品への思いを聞いた。 (聞き手 藤村謙吾)
―なぜ今、陸軍中野学校の「秘密戦」や「戦争マラリア」がテーマなのか。
三上 陸軍中野学校がやろうとしたことを正確に理解しないと、軍隊が来たときにまた沖縄が同じ運命をたどらされる。
大矢 波照間島は地上戦はなかったが、日本軍の軍命による強制移住の結果、マラリアで約500人も亡くなった。軍と住民が共存すれば、どんな恐ろしい代償を住民が払わされるか。その恐ろしさを端的に表している。
―撮影で心掛けたことは。
大矢 (証言者の)ありのまま、インタビューの中で自然と出てくる言葉を大切にした。
三上 スパイ虐殺に関わった人たちは、70、80歳のおじいになっている。“あなたも加害者ですよね”と言うインタビュアーが来たら、この人は一生の最後にものすごい嫌な思いをする。みんなやりたくないし、やっちゃいけないと思ってやらなかった分野。断罪するような取材者になりたくなかった。でも、軍隊のシステムの闇が分かっていたら、今後何万人も救えるかもしれないと思い、やらないといけないと思った。ずっと自問自答している。
―軍隊のシステムの闇とは。
三上 島しょ戦は補給ができず、有事の時点で島に残る食料、武器、燃料で何とかしなかったら死ぬ。住民を使うのは当たり前だ。住民に食料を作らせ、労働させ、互いを監視させて、震え上がらせるために殺す。最後は、住民に武器を持って戦わせるのが秘密戦の基本だった。沖縄戦当時も軍が住民を『始末のつく状態』などと表現していた。軍に協力させておきながら、住民は始末の悪い存在になっていってしまう。そのため始末のつく状態にし、最後は始末する。スパイ候補生になり、戦ってもらうか、死んでもらうかという選択肢しか残っていない。そのことに気付かず集落の人は、軍隊に協力し、スパイに関する情報を出す。人間心理の闇が、軍国主義の中で、暴力社会の中で、油を注いでいってしまい、結果的に一番大事にしないといけない同じ地域の人を軍に売るような形になったり、その人の命をなぜか奪うような事態になったりする。
―観客に何を伝えたいか。
三上 軍隊が住民を守らないという沖縄戦の教訓がある。どうして守らなかったのか、守れなかったのか。そのシステムを冷静に見てほしい。
大矢 平和がほしいといって自衛隊を派遣したり、米軍がイラク、アフガンに侵攻したり、“平和がいい”ってすごく怖い言葉になった。軍隊を置く時点で、住民は犠牲になる。その恐ろしい未来はすぐそこに来ている。この映画には沖縄戦の教訓から学び取れる要素がたくさんあるのでそこを感じてほしい。