米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設に伴う名護市辺野古の新基地建設計画を巡り、沖縄県の翁長雄志知事が前知事の埋め立て承認を撤回する手続きに入った。8月上旬に沖縄防衛局側の言い分を聞く聴聞を開催する見通しだ。8月17日以降に土砂を投入する方針を示す政府は、意に介さず辺野古新基地建設を進める姿勢を崩さない。辺野古新基地建設を巡る県と国の闘いは重大局面に突入しようとしている。
翁長知事は、撤回を表明した記者会見で新基地建設の工事状況を「傍若無人」と表現するなど政府批判を繰り広げた。記者団の質問に言葉が少なかった26日以前と打って変わり「翁長節」(知事周辺)が飛び出した。質疑応答は予定を10分ほど超えて続けられた。
会見冒頭、用意した発表文を読み上げるのに先立ち、東アジアの緊張緩和に言及し「20年以上も前に決定された辺野古新基地建設を見直すこともなく強引に押し進めようとする政府の姿勢は到底容認できるものではない」と非難した。6月23日の「慰霊の日」に発した平和宣言と同様「平和を求める大きな流れからも取り残されている」ととがめた。
「美しい辺野古を埋め立てる理由がない」。県からの繰り返される行政指導に従わない国の姿勢について意見を問われると、用意された原稿は一切見ずに、手振りを交えて思いを語った。「(政府は)とんでもなく固い意思で沖縄に新辺野古基地を造るという思いを持っている」
翁長知事は来週から2019年度沖縄関係予算の概算要求に向けた要請行動に臨む。膵臓(すいぞう)がんの療養で長距離移動を伴う出張は控えていたが、強い希望で自ら東京に赴く。撤回表明は国庫要請後になるとの見方もあったが、翁長知事は真っ向から挑む姿勢を隠さなかった。
27日の記者会見で、沖縄振興予算を基地とリンクさせて増減させる政府への不満をにじませ、それに依存する県内の一部政治家にも矛先を向けた。「私のような者が出てきて反対したら『振興策は厳しくなるぞ』というような状況に、(この先)何十年も沖縄が置かれていいのか」
政府は県が「撤回」に向けた聴聞手続きに入ることついて「聴聞通知書が届いたら内容を精査の上、適切に対応したい」(小野寺五典防衛相)などと述べるにとどめ、今後の対応についての明言は避けた。防衛省関係者は、翁長氏が昨年から撤回を明言していたことに触れ「こちらもあらゆる出方を想定し工事を進めてきた。知事の会見内容も驚くものはない」と自信をのぞかせる。
聴聞手続きを経て翁長氏が撤回すれば移設工事は止まる見込みだが、政府は直ちに撤回の処分執行停止の申し立てや、撤回の取り消しに関する訴訟を提起するなどの対抗策を検討している。執行停止が認められれば工事は再開される見込みで、政府関係者は「再開まで時間はかからないだろう」と見通す。
11月の知事選への影響を避けるため、早い段階で埋め立てに着手し既成事実化を進める狙いが政府にはある。だが、防衛省幹部は8月17日にも予定している辺野古沿岸への埋め立て土砂投入について「撤回されれば期日の意味はなくなる」として、スケジュールが後ろにずれこむ可能性も示唆する。
政府は今後の県の聴聞に応じる構えだ。県は土砂投入前に撤回に踏み切りたい考えだが、聴聞手続きが長引けば、先に政府が土砂を投入する可能性もあり、不透明な情勢が続く。
翁長知事は撤回の時期を示さず、政府も撤回された場合の対応方針を明らかにしていない。今後予想される攻防に向け、互いに腹の内を探り合う駆け引きが既に始まっている。 (當山幸都、明真南斗)