“追悼集会”色濃く 知事選見据え与野党思惑 辺野古土砂投入阻止県民大会


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「辺野古新基地NO」などのメッセージボードを掲げ、基地建設反対を訴える参加者=11日、那覇市の奥武山公園陸上競技場

 台風接近による悪天候の中、沖縄県名護市辺野古の新基地建設断念を求める県民大会は、翁長雄志知事の急逝で追悼の色合いが濃い内容となった。主催者発表で7万人が参加し、翁長知事の新基地建設反対の遺志が幅広く浸透していることが表れた。一方、政府や自民県連は知事選に向けて弔い合戦ムードが高まることに警戒感を強めている。

 大会開会前、翁長知事が6月23日の沖縄全戦没者追悼式で読み上げた平和宣言の音声が会場に流れると、涙を拭う人たちの姿があった。
 
 冒頭、参加者一同が黙とうをささげた後、次男の翁長雄治那覇市議が登壇した。胸には、知事が大会に出席するために準備していた辺野古の海の色を表現した帽子。「父はどうしたら新基地建設を止められるのか、病室のベッドでも資料を読みあさり、一生懸命頑張っていた」「父、翁長雄志に辺野古新基地建設が止められたと報告したい」と訴えた。 

 登壇者の多くが「知事の遺志を受け継ぎ、新基地建設を阻止しよう」と呼び掛け、県民の団結を訴えた。稲嶺進前名護市長は「翁長知事への追悼の思いを皆が持ち、今日のこの場に集まったと思う。翁長知事にも皆の思い、声が届いたと思う」と強調した。

 翁長知事の急逝により知事選が9月に前倒しされることになったことを念頭に、県政与党からは「県民大会は知事選の大きな弾みになる」(照屋寛徳衆院議員)「ぶれない候補を打ち立てることができれば勝利できる」(伊波洋一参院議員)との声が出るなど、大会は知事選に向けた決起大会の様相も呈していた。

 県民大会や県政与党の思惑に対し、危機感を強めるのが政府や自民党だ。沖縄政策に関わりのある政府関係者の一人は「与野党とも知事選を意識せざるを得ない中での開催だ。多くの人々が集まり訴えたことが今後どう影響していくか見極めたい」と、政局への影響を注視する。 

 自民県連関係者は「完全に潮目は変わった。我々はもう翁長知事を批判しない。これから早急に戦略を練り直す必要がある」と、選挙態勢づくりを急ぐ考えを示した。別の県連幹部は「翁長知事の死を政争の具にしてはならない。同じく県民大会が県内政局に影響を与えるものとなっては駄目だ。知事選はあくまで沖縄のリーダーを決めるもので、政策論争をすべきだ」とけん制する。

 自民県連関係者によると、月内に予定していた宜野湾市長の佐喜真淳氏の出馬表明会見は知事の死去を受け、見送る方針。同関係者は「会見で人を大勢並べてお祭りのようなことはできない。市長辞職をもって、出馬表明に代える」と語る。別の関係者は「知事選だけではなく、統一地方選にも影響を与えている。非常に選挙運動がしにくい空気が漂っている」と話す。

 こうした中、菅義偉官房長官は10日、日帰りで翁長知事の通夜に参列した。その直前、那覇市内のホテルで自民県連の翁長政俊会長代行と会談し、政局や知事選への影響などについて意見を交わしたとみられる。

 これに対し、県政与党は10日に正副議長会を開催し、与党代表者会議と同様に翁長知事の遺志を受け継ぎ、普天間飛行場の県内移設断念を求めた「建白書」を実現できる候補者を選出することを確認した。

 与党は告別式が終わり次第、調整会議を開催し、候補者選考委員会を発足させるなど選挙への準備を急ぐ考え。与党幹部の一人は「風向きは変わったが、取り組みは我々の方が遅れている。油断しないで気を引き締めないといけない」と語った。 (吉田健一、當山幸都、知念征尚、中村万里子)