辺野古承認撤回 県、阻止へ「宝刀」 国対抗策、時期焦点に 県民感情の刺激懸念


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 米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設を巡り、県は31日、公有水面埋め立て承認を撤回した。翁長雄志知事の急逝により政治状況がめまぐるしく転換する中、新基地建設阻止に向け県が「放った矢」(県幹部)に、国がどう対抗するかに注目が集まる。移設問題の行方を左右する9月30日投開票の知事選への影響も大きく、波紋は一気に広がった。国と県の双方が選挙日程との関連を否定するものの、どちらにも政治的思惑が透ける。

 「翁長知事の思いに応えることができたのではないか」。

■遺志と政治日程

 撤回会見で、謝花喜一郎副知事は翁長氏への思いを問われ、言葉に力が入った。冒頭でも「知事の強く熱い思いを受け止めた上で判断した」と表現するなど、「撤回処分はあくまで行政手続きだ」と強調する半面で、翁長知事の遺志に触れる発言が目立った。

 県関係者は「これからの沖縄はどうあるべきか。翁長知事が命を懸けて貫いたことを受けて、今後は県民がどう判断するかだ」と、知事亡き後も県政として翁長氏の公約を実現させた意義を語る。撤回に踏み切る方針を表明した7月27日の記者会見で翁長知事が沖縄の自立を強調したことに呼応し「分析力や情報量、予算などどれを取っても国家権力は強い。沖縄側が勝てるのは民意だけだ」と国との対決に挑む緊張感を漂わせた。

 会見で謝花副知事は、撤回の時期について政治日程を考慮したことはないのかとの記者の問いに「全くない」と答えた。だが、別の質問に答える形で「玉城デニー氏は翁長知事の遺志を継ぐ」「辺野古移設問題の是否が争点になるのではないか」など知事選にも言及。政治判断があったのではないかと再度迫られると、「(撤回に)政治的判断もあると捉えられたなら残念だ。政治的な判断は置いて、慎重に慎重を期して判断した」と火消しに躍起になった。佐喜真淳氏を推す自民党関係者は「撤回と選挙は本来関係ない。おかしい」と不快感を示した。

■慎重姿勢

 小野寺五典防衛相は対抗策として法的措置を講じることに触れたものの、その内容や時期については「総合的に判断する」として言及を避けた。

 2015年10月に翁長知事が埋め立て承認を取り消した際、政府はその日のうちに「一刻も早く(移設作業を)再開するための対応を取る」(当時の中谷元防衛相)と明言し、翌日には県の取り消し処分を無効化する執行停止を申し立てるなどの対抗措置を講じた。今回の対応は、対抗措置の行使に前のめりだった承認取り消しの時とは対照的だ。

 翁長氏の急逝により9月に前倒しで実施されることになった知事選への影響を見極めたい狙いが透けるが、小野寺氏は法的措置を講じるタイミングについて「沖縄の選挙などを念頭に置いてこの問題に対応するということはない」とも強調し、選挙戦には左右されないとの考えも示した。

 ただ、知事選で辺野古移設の争点化を避けたい政府・与党内には、埋め立て土砂の投入を選挙後に先送りするよう求める声がある。撤回に対しても、直ちに対抗手段を講じて県民感情を刺激するのは避けたいのが本音でもある。

 政府関係者は「命を懸けた知事の決断さえも軽んじたと受け取られないよう、慎重な検討が必要だ」と語った。
 (明真南斗、當山幸都)