【名護】「沖縄愛楽園」の開園80年を前に琉球新報は、入所者にアンケートを実施した。回答した56人のうち、66・1%がハンセン病に対する差別が「今もある」と答えた。強制隔離を定め患者の人権を奪った「らい予防法」の廃止から22年たった今もなお、社会の理解が不足している現状が浮き彫りとなった。
アンケートは愛楽園自治会の協力を得て、全入所者142人に調査票を配布した。56人(男性27人、女性28人、無回答1人)から回答があった。回答率は39・4%。
「差別を今も感じるか」との設問に「はい」と回答した人は66・1%(37人)で過半数に達し、「いいえ」の25%(14人)の倍以上だった。無回答が5・4%(3人)、その他は3・6%(2人)だった。
差別を感じると答えた人の中には「実の姉は家にも入れてくれない。親族もいやがっている」など、家族からも差別を受けている現状を訴えた。その他とした回答者は「社会(園外)で生活をしたことがないので分からない」とした。
◆差別 家族に被害62% 「地域でいじめ」「改名した」
「差別が今もあるか」について「はい」は66・1%に上った。過去を含めて差別を受けた体験を明かす人もいた。80代の男性は、本土にある高校進学のために乗船した船で、ハンセン病患者と発覚して下船させられた。80代の女性は、園外で暮らす母親が家探しに苦労したとつづった。「いいえ」が25%(14人)だった。うち2人は「昔はあった」と回答した。
「家族への被害があったか」の問いで、「はい」としたのは62・5%(35人)と半数を超えた。「いいえ」は28・6%(16人)。無回答7・1%(4人)、「分からない」が1・8%(1人)だった。
家族への被害の事例として「大いにあった。家族が地域でいじめを受けた」、「家族を守るために改名した」と回答があった。
家族に被害があったとした35人のうち、園外で「生活できない」としたのは77・1%(27人)だった。「生活できる」としたのは11・4%(4人)で、「難しいが生活できる」は8・6%(3人)だった。
「今も差別がある」と回答した37人のうち、「家族への被害があった」は70・3%(26人)。「なかった」は21・6%(8人)だった。
「周囲に病歴を明かしていない」は全回答者の21・4%(12人)。このうち「家族への被害もあった」が58・3%(7人)で、「なかった」は25%(3人)だった。
◆強制堕胎・断種経験17%
強制堕胎・断種の経験について、「はい」は17・9%(10人)だった。「いいえ」は53・6%(30人)、無回答は28・6%(16人)。結婚(死別・離婚も含む)については「ある」が85・7%(48人)。「ない」が12・5%(7人)。無回答が1・8%(1人)。
強制堕胎・断種を強いられた10人は女性が80%(8人)、男性は20%(2人)。全員が結婚経験があり、結婚相手も入所者だった。
堕胎・断種を強いられた理由について、「妊娠」は5人と半数を占めた。「結婚」は10%(1人)。無回答は30%(3人)、その他は10%(1人)。また「子どもがいない」は60%(6人)、「いる」は40%(4人)だった。
強制堕胎・断種がなかった30人のうち、女性は56・7%(17人)、男性は43・3%(13人)。回答者の93・3%(28人)は結婚経験があった。結婚相手については、入所者が82・1%(23人)、入所者以外が14・3%(4人)だった。無回答は3・6%(1人)。
80代の男性は妻も入所者だった。「1955年ごろ、2回強制堕胎がありました」と回答した。子どもは2人いる。「妻の病気は軽症で、外部で生んで育てた」「私の兄弟の協力を得て、子どもたちを育てた」と答えた。
「結婚していない、離婚した」と回答した7人にハンセン病元患者だったことが影響したかを聞いた。「影響した」が14・3%(1人)、「どちらかといえば影響した」が28・6%(2人)、「ない」が14・3%(1人)だった。無回答は42・9%(3人)。
◆愛楽園「残すべきだ」64%
愛楽園の将来像について「永続化して残すべきだ」と回答したのは64・3%(36人)で「永続化しなくてよい」としたのは25%(14人)だった。
残す理由について「歴史を後世に残すため」とする人がいる一方で、残すべきだとしながらも「ハンセン病への理解が得られなければ園を残しても意味がない」との回答もあった。
永続化しなくてよいとした理由は「入所者がいなくなったらなくしたほうがいい」「有効利用したほうがいい」との理由が多かった。中には「社会の理解がないために、自分が死んだあとも残っていると家族に迷惑がかかる」と答える人もいた。
その他が3・6%(2人)で、それぞれ「分からない」「難しい」と回答した。無回答は7・1%(4人)。
入所者の平均年齢は8日現在で84・23歳となった。年々、高齢化が進む中で、園の将来像について検討が進められている。愛楽園と名護市は今年、2008年に策定したホスピスや長期滞在型健康保養施設整備などの将来構想を再検討している。10月31日には未使用地利活用計画策定に向けた第1回検討懇話会を開いた。主に園西側、約12ヘクタールの利活用について検討を進めている。
◆「園外で暮らせない」69%
「園外で生活できるか」との問いには「できない」との回答が69・6%(39人)に上った。「できる」は16・1%(9人)、「難しいができる」は8・9%(5人)、無回答は5・4%(3人)。
園外で暮らせない理由(複数回答)として、「園内で暮らす方が精神的に楽だ」が84・6%(33人)と最多だった。「後遺症があり介助がないと難しい」が61・5%(24人)、「現在、病気(ハンセン病以外)を抱えている」35・9%(14人)、「帰る家がない」33・3%(13人)、「病歴を明かせない」7・7%(3人)と続いた。
病歴の告知について「家族や親族、友人に明かしているか」との問いに「いいえ」と回答した人は21・4%(12人)おり、その理由(自由記載)として「家族や親族から口止めされている」や「家族を守るため」などが挙がった。
告知について「はい」と答えた割合は73・2%(41人)、無回答は5・4%(3人)だった。
◆「教育で啓発」自治会求める 「多くの人知って」
アンケートの結果を受けて、金城雅春自治会長は「今も差別があるとした人が多いことに驚いた」と述べた。
入所者の高齢化が進む中、愛楽園は地域共生を掲げており、自治会でもハンセン病とその歴史を知ってもらいたいと地域交流などを進めてきた。「園外との交流も増えてきている」とし、「自治会としても啓発の強化に取り組みたい。社会の理解を深めるために普段の教育の中にハンセン病の問題を取り入れてもらいたい」と望んだ。
愛楽園交流会館学芸員を務める辻央さんは、結婚している人が87%いるにもかかわらず、「結婚はしたが子どもはいない」が48%に上っていることを挙げて「調査に断種・堕胎を経験したと明確に答えたのは17・9%だが、そのまま素直に受け取ってはいけない」と指摘した。「家族への被害も高い数字が出ている、係争中の家族裁判が非常に大切な裁判であると改めて認識した」と語った。
「在園者の年齢を考えると残された時間は少ない。一人でも多くの人にハンセン病問題をより深く知ってもらえるように取り組みたい」とした。
沖縄愛楽園 青木恵哉氏が開いた土地を基に1938年に県立国頭愛楽園として開園。米軍統治、琉球政府時代を経て、72年復帰に伴い国立療養所沖縄愛楽園となった。園に強制収容された患者は退所も外出も許可されず、断種・堕胎が強要されるなどの人権侵害が行われた。強制隔離は96年に「らい予防法」が廃止されるまで続いた。