泡盛 県産米で付加価値 定番化へプロジェクト始動 安定供給鍵


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 県産米での琉球泡盛造りを目指す取り組みが始まった。泡盛のほとんどはタイ米が原料で、県産米を使う銘柄はわずかだ。ワインや日本酒は「テロワール」(地域の特徴)を持たせることで付加価値を高め、海外輸出につなげている。国や県は、泡盛原料米をつくる農家に交付金を支給して県産米による泡盛生産を後押しする。

多くの銘柄の中で、県産米使用の泡盛は「照島」「尚円の里」など数少なく、ほとんどがタイ米使用だ=9日、那覇市首里の泡盛館

 宮腰光寛沖縄担当相自ら「琉球泡盛テロワールプロジェクト」と名付けた計画の説明会が1月27日、那覇市の沖縄総合事務局で開かれた。米産地の首長や農業団体、酒造所らが一堂に会した。宮腰氏は「泡盛の原産地にタイ産米と表記すると諸外国では評価がもらえないのが現状だ。本事業で泡盛と県産米を結び付けたい」と語り、協力を呼び掛けた。

 県は泡盛原料米(加工米)の生産拡大に向け、国の交付金を活用した新たな支援策を設ける方針を固めた。原料米を栽培する農家に10アール当たり4万5千円の支給を想定している。

 これに国の戦略作物助成として同2万円が上乗せされ、原料用米の販売収入として同2万6千円を見込むとした。合算すると同9万円以上で、主食用米を栽培する農家の収入(同8万4千円)を上回ることが可能との見通しを示した。収穫量の多い原料米なら収入も増えるとし、生産者の意欲を喚起した。

 だが、農家などの生産者や酒造所には懸念もある。

 生産者側は、原料米が全て買い取ってもらえるかを心配する。米の生産地、金武町の仲間一町長は「過去に金武の米で泡盛を製造したことがあるが、加工技術が難しく1年で終わってしまった」と指摘した。ほかにも原料米の栽培技術や、自然災害対策、設備整備などの課題があがる。

琉球泡盛テロワールプロジェクト説明会に集まった酒造関係者、農業関係者ら=1月27日、那覇市の沖縄総合事務局

 酒造所は、県内の米生産量が約2千トンと少なく、台風などの災害も多い中、供給量を懸念する。県酒造組合の佐久本学会長は「商品を定番化するためには原料米が安定供給されないと難しい」と話す。原料米は現在、1キロ当たり90円だが、県産米を使った場合、同100円と試算されている。通常、国産米はタイ米の2、3倍の価格になり、県内酒造所も手が出せない状況だという。

 酒造関係者は「200円以上になってくると厳しいが、100円だと手が出せる。県産米の付加価値が付いているので、少し高くても売れるだろう」と見込む。

 これらの懸念も受けて国は、生産者と酒造所のマッチングや全粒買い取りの契約栽培も提案した。

 7月ごろから始まる二期作での植え付けを目標に、沖縄総合事務局は今月にもプロジェクトチームを立ち上げ、酒造所と農家が需要と供給をすり合わせるマッチングの場を設ける。酒造所へヒアリング調査し、必要な原料米の量や事業への参加意思なども確認している。

 クリアすべき課題は多いが、説明会には酒造所30社弱が参加し、関心も高い。酒造所経営者は「地元の米を使えば、さらに価値が上がる」「ワインやシャンパンも原産地にこだわる中、県外・海外へのアピールがしやすくなる」と期待の声が上がっている。

 (中村優希、知念征尚)