発達障がいのある10歳の少年の初めての取組 土俵は夢を表す場所に 支えたのは沖縄の相撲名門校・中部農林高校での稽古


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 相撲の第30回琴椿杯(1月26日、うるま市具志川ドーム)。大勢の力士や観客の視線が中央の土俵に向かう。この日初めて大会に挑んだ美咲特別支援学校小学部4年の赤嶺悠真君(10)=智心館、うるま市=は口をへの字に結び相手と向き合う。初戦にもかかわらず、関係者の注目を集めた大一番。見守る母のルミさん(48)は、一人息子の戦う姿に「ここまで来ることができた」とあふれる涙を抑えることができなかった。

初の取組で力を込めて押し相撲する赤嶺悠真君(左)=うるま市具志川ドーム

 赤嶺君は発達障がいの一種・自閉症スペクトラム障害のために意思疎通がやや困難だ。相撲との出合いは、4歳の時にテレビで見た大相撲だった。「力士の名前を全員言える」(ルミさん)ほど、今では頭は相撲でいっぱいだ。

 2016年に知人のつてで県内の名門、中部農林高校相撲部の稽古を見学した。大きな音に過敏になりやすい面があるが、その日に稽古の参加を希望した。発達障がいを理由に周りから避けられた場面を何度も見てきただけに、小濱寿監督の快諾にルミさんは「普通に、温かく接していただいた」とその日のことをはっきり覚えており、感謝の念は尽きない。

 初めて臨んだ琴椿杯。大会で見合ったのは昨年の覇者の玉城伝紳君(てだこ)。立ち合いでぶつかった後、粘ったが、まわしを取られたため下半身からじりじりと押され、そのまま寄り切られた。初白星は飾れなかったが、渾身(こんしん)の力を出し切り「楽しかった。心がどきどきした」とうれしそうだった。一方で土俵を割られた悔しさも胸に刻まれ、逆に稽古への熱意は増した。週1度だった練習日の回数を増やしたい、とルミさんに切望しているという。

大会後、憧れの選手の一般の部優勝・山本浩太(中央)、高校の部優勝の城間瑠正(右)と並び記念写真に納まる赤嶺悠真君

 稽古では強くて憧れの先輩の助言は素直に聞き、あいさつなど礼儀作法も身に付いてきた。大きな音に耳をふさぐ場面もあるが、それでも稽古場から離れないのは相撲が好きだからだ。ルミさんは「触れ合うことで人との関わりが以前より上手になった」と息子の変化を喜ぶ。

 練習後はいつも部員から「また来いよ」と声がかかる。小濱監督は「駄目なことは駄目」と基本的なことを教えつつ、「ここで身に付けたことが社会に出た時に役立ってくれればいい」と話す。

 大相撲の冬巡業沖縄場所は3度観戦し、横綱白鵬に憧れる。見ることが中心だった土俵は「強くなりたい」という自身の夢を表す場所に変わりつつある。ルミさんにとっても、中部農林高相撲部は安心して送り出せる「(悠真の)すてきな居場所」になった。「相撲部の皆さんとの関わりの中で何か大切なことを感じ取って、たくましく育ってほしい」(ルミさん)。相撲好きの少年が母の願いとともにすり足のように一歩一歩進んでいく。
 (古川峻)