【名護】青く澄んだ海が広がる沖縄県名護市辺野古。にがりの代わりに辺野古の海水を使った昔ながらのゆし豆腐が2月24日、辺野古区の総合展示会で4年ぶりに振る舞われた。海水で作ったゆし豆腐は住民もめったに食べられない。女性たちが手作業でゆっくりと時間をかけ、柔らかな味わいに仕上げた。
23日の朝、うみんちゅの川上将吾さん(37)と嘉陽宗哉さん(27)が辺野古漁港を出た。漁港から約1キロ沖合で、60リットルの海水をくむ。「この辺の海できれいな所。天気にもよるけど夜行貝とかサザエもいるよ」と話す。
海水のゆし豆腐の作り方を教えるのは、16歳の時から豆腐を作っていた島袋初枝さん(91)だ。「今のうちに、若いのに教えておかないといけないさぁ」。受け継いで来た地域の味を残し、伝えたいとの思いがある。
朝4時半から水に浸して膨らんだ豆をひいてこし、布巾で絞って豆乳とおからに分ける。豆が少し荒かったので、川上登喜子さん(67)が搾りかすを手でもんでいた。「もんだらうまみが出るみたい。絞るのが大変」。おいしい豆腐は簡単に作れないことが分かる。
調理場に移り、絞りたての豆乳を大鍋に流し込む。煮込んで泡が上がってきたら打ち水をし、海水を入れる瞬間を見計らう。このタイミングは島袋さんにしか分からない。「にがりはいつ入れるの?」との問いに「にがりと言うな、海水と言え」と島袋さん。「辺野古は自然の物を使うんだよ。にがりを入れた豆腐なんて食べたことないよ」。その言葉には、厳しさの中に優しさがこもっている。「海水は引き潮の時は塩が薄いから、満潮の時にくむんだよ」。後輩たちが海水でゆし豆腐が作れるよう丁寧に教えていく。
「いいよ、今入れれ」。島袋さんの合図で、ひしゃくですくった海水をゆっくりと回し入れていく。昔は豆腐を炊いている間に海水をくみに行った。「あの頃は浜がきれいで、すぐ取れたけど。今は汚いから遠くでくんでる。時間がかかるから、豆腐はのんきなものがやるもんだ」と語る。
女性たちは大鍋の前を離れず、あくを取り続ける。ふんわりとしたゆし豆腐が出来上がると、女性たちの表情が明るくなった。受け継いできた地域の味を守り続けていく。手作りのゆし豆腐にはそんな思いが込められている。
(阪口彩子)