くじけない県民の姿描く 演劇「クテーラン人びと」 辺野古新基地建設を巡る人々の胸中


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座り込む市民を演じる(前列左から)古謝渚、新城カメ、吉村直、城間やよい。島袋寛之(後列右)演じるキセは恩師をごぼう抜きすることにちゅうちょする=3月30日、浦添市の国立劇場おきなわ

 米軍普天間飛行場の移設に伴う沖縄県名護市辺野古の新基地建設問題を題材に、くてーらん(こたえない、くじけない)ウチナーンチュの姿を描いた演劇「クテーラン人びと」(伊波雅子脚本、藤井ごう演出)が3月29~31日、浦添市の国立劇場おきなわで上演された。圧倒的な力によって分断されながらも、つながり、前に進もうとする人々。「分断された世界の人間賛歌」(藤井)を、笑いを交えてうたい上げた。主催はエーシーオー沖縄。

 学生時代の恩師である知念(吉村直)に誘われ、イズミ(古謝渚)は基地建設に反対する座り込みに参加する。自分の名前が新基地と同じ読み方であることを気にする新吉(髙宮城実人)に、歌でみんなを励ますクラウディア(新城カメ)など、座り込みには個性的な人々が集う。

 反対だけでなく、沖縄で生きる人々の多様な立場、考え方がリアルに描かれた。現場で警備する機動隊の中には知念の教え子であるキセ(島袋寛之)がいる。キセは市民を排除する任務に「僕だってウチナーンチュだ。いい気持ちはしない」と苦しい胸中を明かす。距離を置こうとするキセに、イズミは「基地のことで人間関係をチャラにすることはない」と語り掛ける。

 一方、イズミの家は軍用地を持っており、母(城間やよい)は基地が造られてしまうなら条件を交渉した方がいい、という考えだ。イズミも軍用地料から学費を出してもらったという複雑さを抱えている。

 終盤、台風が近づき、座り込みをしている市民は基地建設工事の中断を期待する。海に詳しく「カイヨウハク」と呼ばれる少年(島袋、二役)は海に平和が訪れた夢を見る。夢が覚め、台風もそれ、落胆する人々。それでも諦めずに再び立ち上がる。劇を効果的に盛り上げたのが、登場人物が歌い踊る「クテーラン音頭」だ。「ヤマトが要らんものは、ワッターヤティン ノー・サンキュー」と、的を射た言葉でおおらかに歌った。

 沖縄の基地問題を描いた近年の演劇には藤井が演出した「普天間」(坂手洋二作)などがある。「クテーラン人びと」は沖縄発で辺野古移設問題を描いたという点で画期的だ。プロデューサーの下山久の「今、沖縄で芝居を作るなら辺野古でしょうが」という言葉に、脚本家の伊波が賛同したのが4年前。刻一刻と状況が変化する中、この問題をどう切り取ればいいのか悪戦苦闘したという。辺野古移設に反対する人、容認する人、機動隊員らに話を聞きながら1年半以上掛けて脚本を仕上げた。辺野古の問題に限定されない普遍性もあり、県外でも上演してほしい作品だ。

 もちろん、普天間や辺野古の人々の思いなど、描き切れていない部分もある。今後、また別の視点から沖縄の舞台人がこの問題に挑んでいくことも期待したい。音楽は大西玲央、振り付けは知花小百合。
 (伊佐尚記)