『映画の字幕ナビ』 映画への愛に脱帽


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
『映画の字幕ナビ』落合寿和著 スティングレイ・1512円

 まず、著者・落合寿和氏の映画愛に脱帽した。

 落合氏は、私が設立した沖縄のこども国際映画祭の日本語吹き替え台本を担当しており、数年来の付き合いだ。落合氏は留学生として、私は助監督として働きながら、カナダのケベック州モントリオールで映画を学んだ、という共通点もある。今もカナダの話になると仕事そっちのけで盛り上がる。

 本書は、身近ながらあまり意識することのない「日本語字幕」についての本だ。一般的なルールとその例外なども丁寧に説明されており勉強したい人にはうってつけだが、映画の作り手の立場でも面白い発見が多くあった。

 まず、映画の土台となる「脚本」を想像しながら字幕を考える姿勢を心強く感じた。そう、映画館でみる映画は、この脚本を基に、撮影や編集段階での苦渋の判断を生き延びたシーンの集結だ。大なり小なりその全てが映画を背負っている。しかし、最後の最後、観客に届く段階で字幕翻訳者がその「思い」をくみ取れていなかったら―?映画を生かすも殺すも、字幕次第。その意味では恐怖さえ感じた!

 落合氏が発見した誤訳の紹介は、笑ってしまうものもあるが、正直人ごとと思えない。英語が堪能でカナダ留学した落合氏と違い、度胸と勘とブロークン・イングリッシュを頼りにカナダに渡った私。「もしも、カナダで日本語字幕翻訳のアルバイトをしていたら…?」悪夢でしかない。著者自身のヒヤリ・ハット「レモンコークの教訓」も思わずメモした。

 それにしても、膨大な数の映画字幕製作に追われるなか、気になる映画の字幕もきちんとチェックしている探究心と映画愛にやはり脱帽だ。

 最後に胸にグッときた著者の言葉を贈る。「映画ほど一気に人の知恵の集積を見られるものは、そうそう他にはあるものではありません。どんな宝石よりも価値があると私は思います」。映画の魅力をそのまま届けるために尽力する影のプロフェッショナル「字幕翻訳家」の努力に乾杯しつつ、映画を見たくなるそんな一冊だ。(宮平貴子・映画監督・プロデューサー)

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 おちあい・としかず 1967年生まれ、神奈川県出身。1990年に字幕翻訳家としてデビュー。映画、報道などさまざまな分野の字幕翻訳、吹き替え翻訳を担当。96年に有限会社ヘザーを設立。上映・放映時間にして6000時間ほどを翻訳している。

 

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