助産師2人が、出産する家族に密着して撮った写真と文章で命が生まれる現場を伝える写真展「UMAREる展。」が17~19日、沖縄県那覇市の県立博物館・美術館の県民ギャラリーで開かれる。2人は必ずしも喜びだけではない現場を重ねて性教育の必要性を痛感してきたといい「知識は武器。知ることで命を大切にする手段を伝えたい」と思いを込める。
作品を作るのはユニット「UMARE」として活動するフォトグラファーで助産師のasaさんとmakiさん。助産師としての専門性を持ちながら、出産前から誕生後2週間頃まで家族に密着して母子を撮影する「バースフォト」を手掛ける。作品には、陣痛の痛みに耐える母親の顔や握りしめた手、くしゃくしゃの顔で第一声を上げる赤ちゃんと迎える家族、レースのように広がる胎盤などが、静かに力強く切り取られている。
2人がバースフォトを撮る一番の理由は性教育だ。幼少時から家族から話を聞いて、性行為が妊娠・出産につながること、望まない妊娠には中絶があり、出産の後には長い子育てがあること、具体的な避妊や性感染症予防も知り、知識と慎重さを身につけた。
一方、命の勉強をしようと入学した看護学校では、看護学生でさえ無防備な性行動を取ることにショックを覚えたという。
助産の現場には性行動の先の現実が広がっていた。生まれる直前に赤ちゃんが亡くなり、泣き崩れる親族、亡くなっていても元気な子と同じように出産しなければならない母親の痛み。助産師たちはそんな赤ちゃんをやさしく抱っこし「寒くないかな」などと言葉を掛けながら小さなひつぎに納めるのだという。命の重さを感じる一方で、中絶のために起こした陣痛に顔をしかめる17歳は「痛い、うけるわ」とちゃかし、付き添う姉は「何痛がってんの」と笑っていた。「性行為の先に何があるのか想像できていない」との思いを2人は強めた。
命を宿したことで傷つく女性たちもいた。中絶を選んだものの「これでよかったのか」と涙する女性。未受診での飛び込み出産をして「見たくない」「下げて」と赤ちゃんの顔を見ることもなく、1人で退院した人もいた。自分たちにできることはないかと模索を続けて、思いついたのが出産の現場をありのまま撮影し、その写真を性教育に生かすバースフォトだった。
趣旨を伝えて協力してくれる家族を募ると「親と性の話ができず悩んだ。子どもにはきちんと伝えたい」「見てもらうことで救われる人がいるなら」と何組もが賛同し、撮影の手が回らないほどだという。
家族とは話し合いを重ねて当日を迎え、makiさんが写真の、asaさんが動画のカメラをまわす。「『絶対に記録を残す』という気持ちで家族とは仲間のよう。私たちが撮影をちゅうちょしていると、お母さんに背中を押されることもある」とmakiさん。
写真には、母子の様子、出産の進行や体の変化についての科学的な説明に加えて「性教育はその子を守り、その子が自分と相手を守ること」と思いを込めた文章をasaさんがつけ、主にインスタグラムで公表している。中には、2人がこれまで出会った若者たちが口にした「女はレイプが好きなんでしょう」「セックスを求められて断っていいと知らなかった」といった、不十分な性教育が生んだ現実も紹介。「すごく多くの人が苦しんでいる」という性暴力被害者への「逃げ道」も示す。
写真展ではこれらの写真や文章を展示する。「性の知識は自然に身につくものじゃない。命を美化したり肝心なことを隠したりせず、身を守る行動につながる具体的な手段を伝えたい」「若い人たち、性教育に無関心な年配以上の男性たちにもぜひ見てほしい」と呼び掛けた。会期中は2人が会場で待機し対話も可能。入場無料。
(黒田華)