『古琉球 海洋アジアの輝ける王国』 中世研究に多くを加える


社会
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『古琉球 海洋アジアの輝ける王国』村井章介著 KADOKAWA・2376円

 本書は「序章 古琉球から世界史へ」に続けて、「王国誕生前夜」「冊封体制下の国家形成」「冊封関係と海域交流」「和/琉/漢の文化複合」「王国は滅びたか」と、五つの章に編成されている。

 琉球王国を「明直轄の貿易公社」と見る。その「公社」が取り組む交易は、中国(明)・日本・東南アジア・朝鮮にまで広がりを見せたが、それを「朝貢貿易」の側面だけで見るのではなく、当事者である商人たち(その所属する国・地域は限定されているのではなく、また互いのネットワークを形成している)が、いわば純粋な商業としても取り組んでいたという側面もあるという。

 また、日本中世で将軍・大名たちの顧問・外交官を務めた「禅僧」が、琉球でも同様な役割を果たしていたという。それに加えて「かな」という日本の文字を、琉球の言葉の表現には漢字よりふさわしいとし、それを使っていたことを指摘しているが、主にこの二つの点で、琉球は「中国一辺倒」にはならなかったとする。

 本書の特色であり、学ぶべき点の一つは、『歴代宝案』、『おもろさうし』、碑文、鐘銘、辞令書などの文字史料を、ていねいに読み解いていることである。そして、それぞれが出来(でき)た事情を踏まえつつ、それらに埋没することなく、批判的に扱うよう求めている。

 評者は、この著者のこれまでの論考に多くを学んできた一人であり、以上紹介してきた著者の主張・指摘に大方賛成である。

 しかし、物足りない思いも残った。それは、著者が主題として検討しなかった諸点にある。按司を「地域領主」としていること、「三山」が互いに抗争していたとしていることなど。

 とはいえ、本書は、中世を中心とした琉球史の研究に多くのものを加えた良書であり、今後の研究者が無視することのできない、大きな成果であるとすることができよう。

 (来間泰男・沖縄国際大学名誉教授)

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 むらい・しょうすけ 1949年、大阪市生まれ。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。同大学史料編纂所助教授、同大学大学院人文社会系研究科教授を経て、立正大学教授、東京大学名誉教授。専攻は日本中世史、東アジア文化交流史。

 

古琉球 海洋アジアの輝ける王国 (角川選書)
村井 章介
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