【宜野湾】有機フッ素化合物PFOS(ピーホス)などが沖縄県宜野湾市大山の湧き水から検出されている問題で、京都大学の小泉昭夫名誉教授(環境衛生学)と原田浩二准教授(同)が大山の土壌と田芋を調査し、26日に結果を公表した。土壌のPFOSは、環境省が全国河川の底質で調査した最大値の16・6倍となる1キロ当たり1万1436・4ナノグラムを検出。一方、田芋のPFOS平均は18・9ナノグラムで、土壌からの移行率は0・2%と低い。小泉名誉教授と原田准教授は「摂取による健康リスクは十分低く、田芋は食品として安全と考えられる」と強調した。
調査は4月13日に大山の田芋農家の協力を得て、土壌5地点と田芋5個を採取し分析した。
PFOSなどは発がん性などのリスクがあるとされる。米軍普天間飛行場周辺の河川で高濃度で検出され、基地が汚染源と指摘されている。
化合物PFOA(ピーホア)は田芋平均が1キロ当たり7・5ナノグラム、土壌平均は全国調査の最大値1・7倍の332・1ナノグラムだった。土壌から田芋への移行率は2・3%となっている。今後使用が禁止される可能性があり、調査資料がないPFHxSの田芋平均は33・6ナノグラムだった。土壌からは315・9ナノグラムが検出され、移行率は10・6%だった。
小泉名誉教授と原田准教授は、田芋からPFOSなどが検出されても微量だとし「いずれも田芋中の濃度は低く蓄積性は認められなかった」とした。また「普天間飛行場で使用された消火剤成分が地下水を経由して畑土壌を汚染していると考えられる」と指摘した。
県による2018年度冬季の調査では、大山の湧き水メンダカリヒーガーで、PFOSとPFOAの合計が最大1リットル当たり770ナノグラム検出されている。国内でPFOS・PFOAの環境基準はなく、米国では飲料水中の生涯健康勧告値を1リットル当たり70ナノグラムとしている。
「行政が継続的検査を」
【宜野湾】常に絶えない豊富な水を利用し、県内指折りのターンム(田芋)産地である宜野湾市大山。京都大学の田芋調査では、健康リスクが低い値の有機フッ素化合物が検出されたとした。田芋農家・伊佐實雄(すみお)さん(82)と妻リツ子さん(77)は、一定の安全担保に安堵(あんど)するも「農家が安心して出荷できるようにしてほしい」と行政側に長期的な調査や対策を求める。一方、識者からは土壌汚染を懸念する声も上がった。
大山地域の湧き水から化合物が高濃度で検出されたことが分かり、住民や消費者に不安が広がったのは2016年度。ある住民は「基地ゆえの汚染で、絶対大山の田芋は買わない」と言われたことがある。県は農作物への影響はないと判断したが、田芋農家では風評被害の懸念が続いている。
伊佐家は3世代にわたり田芋を作ってきた。京大の調査を聞いた伊佐さん夫婦は「田芋を買った人の健康を害したら迷惑だ。高い値が出た場合、農家を辞める覚悟だった」と振り返る。結果に胸をなで下ろすが、土壌に化合物が多いことに「原因をはっきり特定し、これからの子たちのため行政が継続的に検査してほしい」と要望。共に暮らす子と孫ら5人で血液検査も受け、ほぼ全員が全国平均より高い値が出た懸念も残る。「水は食や命に関わる。どれくらいの量を摂取していいのか基準値を設けてほしい」とも求めた。
環境調査団体「インフォームド・パブリック・プロジェクト」の河村雅美代表は京大の調査について、これまで土壌調査が実施されていなかったことから「貴重なデータ」としつつも「田芋の安全性が強調されているが、水と土壌が汚染されていることは環境汚染が発生しているということだ。汚染範囲の確定も含めた県や市の包括的な調査が必要と考える」と指摘した。
(金良孝矢)