「勝ったの?」。判決を言い終えた裁判官の退廷後、ハンセン病家族訴訟弁護団の徳田靖之共同代表は法廷内で原告に尋ねられた。「勝ちましたよ」。徳田氏はそう言って原告の手を握った。熊本地裁が28日に下した判決は、ハンセン病患者の強制隔離政策によって患者家族への偏見差別が生まれたとして国の責任を認め、賠償を命じた。
提訴は2016年2月。県内在住者250人を含む561人が原告となり、隔離政策によって家族が受けた悲惨な経験を訴えた。提訴をきっかけに自身の体験を初めて明かした原告もいる。しかし、名を伏せる原告が大半で、偏見差別の根深さを物語った。
国側は「隔離政策は患者を対象にしており、家族は対象に含んでいない」と一貫して主張した。家族への差別偏見があったとしても「社会の構成員が誤解したことによって生じた」などとして責任を否定した。
地裁判決はそういった国の主張を退けた。「患者の家族の偏見差別に対するハンセン病隔離政策などが及ぼした影響は重大だ」。判決は隔離政策で形成された偏見差別によって、患者の家族も就学や就職の拒否、村八分、結婚差別、家族関係の形成の阻害などに遭ったことを具体的に挙げ、「人生被害」を受けたと認めた。原告の本島中部の60代男性は、訴訟に向けて背中を押した娘に「ありがとうと伝えたい」と目頭を押さえた。
判決では隔離政策を担った厚生労働相だけでなく、人権啓発を担当する法務相、教育を担当する文部科学相にも偏見差別を除去する責任があると判断した。「正当な理由なく、長期にわたって立法措置を怠った」として、立法府である国会の責任にも言及した。
この点を徳田氏は「まさしく国の総力を挙げて差別偏見の除去に努めるべきと裁判所が認めた」と評価する。ただ、今回の判決だけでは十分ではないという。「国に控訴させないという国民の運動を通して、ハンセン病の偏見差別を私たちの国から一掃できる」と徳田氏は国の控訴断念による判決確定を期待する。
訴訟を通じて生まれた患者家族と社会とのつながりという「大きな鍵」が尊厳回復への扉を開ける。
(安富智希)
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ハンセン病家族訴訟で熊本地裁は家族への国の責任を認めた。社会からハンセン病に対する偏見差別の一掃へ。勝訴の意義や残された課題を考える。