石垣島の中央部に位置する旧ゴルフ場から重機の音が響き始め、怒りをあらわにする市民の声と混じり合った。防衛省が市平得大俣への陸上自衛隊配備のために駐屯地建設に着手した3月1日、旧ゴルフ場前には約100人の住民らが集まり、「絶対に諦めない」と声を上げた。
防衛の空白地帯を埋めるためとして防衛省は近年、南西諸島への陸自配備を加速させている。
「国境の島なのだから、陸自配備は絶対に必要だ」。八重山防衛協会の理事も務める自営業の崎原毅さん(62)は強調し、国の方針に賛意を示す。そのような考え方を強く固めたきっかけは、1993年に発覚した石垣島を“玄関口”とした集団密航事件だと話す。
組織的な計画の下、中国からの多くの密航者が石垣島の海岸線から入国し、観光客にまぎれながら飛行機で島外に渡っていった事案。石垣島の手薄な警備態勢が、密航拠点として狙われたとされる。
市の行政区域にある尖閣諸島への領海侵入など、中国は海洋進出の動きを強める。崎原さんは「最近の情勢を見ると、国として攻撃的な意図で人間を送り込む可能性だってある。外からすぐに助けが駆け付けられない場所にある中で、隙ができないように、空白を埋めることは大事ではないか。何かあってからでは遅い」と訴える。
ただ、配備反対の声は根強い。その中心となる配備予定周辺4地区の一つ、嵩田公民館の館長を務める高宮耕さん(51)は「抑止力の理屈は分かるが、いざ有事の際に軍事施設がない場所にミサイルを撃ち込むだろうか。利己的かもしれないが、自分たちの生活を考えると配備は受け入れられない」と話す。
「寝耳に水だった」平得大俣への配備計画公表のおよそ3年半後、防衛省は周辺住民らが懸念を示す中で、工事を始めた。そして今年に入ってからは宮古島駐屯地の「保管庫」を巡る問題や、秋田県への地上配備型迎撃ミサイルシステム配備に向けた調査でのミスなどが相次いで発覚した。
「一度配備すれば何とかなると考えているのでは。石垣島でも今はヘリ部隊計画はないなどとしているが、将来はどうなるか」と防衛省への不信感を募らせ、「自分勝手なことをさせないためにも、声を上げ続けなければ」と語る。
4月には宮古島市上野野原に新設された宮古島駐屯地の警備隊隊旗授与式が開かれたが、配備反対の声を上げる住民のシュプレヒコールが会場に響いた。憲法9条への自衛隊明記の議論もある中で、自衛隊配備を巡って島は揺れ続けている。
(おわり)
('19参院選取材班)
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参院選が4日、公示され、候補者は県内各地で政策を訴えている。生活や子育て、基地問題について有権者はどう思っているのか。「暮らしのいま」を歩いて回った。