純粋な愛と狂気描く 高良健吾主演「R18+」指定の話題作「アンダー・ユア・ベッド」 手がけたのは沖縄出身の安里麻里監督


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 西原町出身の安里麻里監督が手掛けた「R18+」指定の話題作「アンダー・ユア・ベッド」が23日から那覇市のシネマパレットで上映中だ。孤独な人生を送る男、三井直人(高良健吾)が大学時代に一度だけ名前を呼んでくれた佐々木千尋(西川可奈子)との再会を求め、ゆがんだ愛に突き進むストーリー。千尋が夫・浜崎健太郎(安部賢一)から暴力にさらされるシーンをリアルに映しながら、人の弱さや純真さ、葛藤が繊細に描かれている。映画について安里監督と西川に話を聞いた。(聞き手 金城実倫)

映画「アンダー・ユア・ベッド」を製作した安里麻里監督(右)と佐々木千尋役を演じた西川可奈子=25日、那覇市の琉球新報社(喜瀬守昭撮影)

―作品を手掛けたきっかけは。

 安里麻里 映画製作会社から大石圭さんの二つの小説を映画化する依頼が来て、自分は「アンダー・ユア・ベッド」を選んだ。この原作は自分のやりたかった演出ができると思った。

―「やりたかった演出」とは。

 安里 不安定な主人公を描きたかった。人は安易に良い、悪いと線を引く。現実はそうではないわけで、それをフィクションの中で描きたかった。この映画を見る観客は初めは主人公の三井に「ダメな人間」と線を引こうとするだろう。しかしだんだん引けなくなっていく。なぜなら主人公は自己愛ではなく見返りを求めない愛を貫こうとしている。誰がそれを裁けるだろう。

―DVの場面は目を覆いたくなるほど激しいシーンだ。どのような気持ちで撮影に挑んだか。

「アンダー・ユア・ベッド」の一場面(スターシアターズ提供)

 西川可奈子 脚本を見た時、絶対に演じたいと思ってオーディションにも臨んだので覚悟を決めていた。つらいシーンもあったが、監督をはじめスタッフの方々が私のメンタルを気に掛けて2週間、合宿しながら撮影したため、演技に集中できた。もし一度自宅に戻っていたら、気持ちが安定しなかったと思う。

 安里 西川さんの精神力には驚きだった。いつも笑顔でいてくれた。彼女だけでなく、すべてのキャストやスタッフがひるむことなくこのテーマに挑んでくれて、ものすごい熱量だった。それが映像にも出ていると思う。

―西川さんから見て安里監督の印象は。

 西川 普段は笑顔の絶えない方だけど、撮影に入ると真剣でとてもかっこよかった。役者の意見を取り入れてくれて、寄り添ってくださった。

 安里 俳優の皆さんには自分が書いた脚本を壊してほしいと思っている。台本通りに演じるより、出演者の新たなアイデアによって、もっとパワーのある作品が仕上がると思う。

―今後は、沖縄映画も製作したいと思うか。

 安里 もちろんつくってみたい。私は沖縄の海や空のような明るい作品ではなく、影のある作品を好む。沖縄でつくる本土復帰前の沖縄の話を手掛けてみたい。当時の若者がどんな気持ちで復帰に向かっていったのか、希望や不安を撮ってみたい。

―最後に作品を見ようと思っている沖縄の方に向けてメッセージを。

 西川 千尋が健太郎の前でただ棒立ちするシーンがある。痛々しくて人間扱いされていない姿、夫婦の関係性が強烈に伝わってくる。ぜひ映画館で見て知ってほしい。

 安里 この作品は親や同級生にも相手にされずに30年間存在しなかったような一人の男が主人公。唯一声を掛けてくれた女性に対し純粋な愛を描いた物語だ。内容はハードだが、だからこそ真の癒やしもある作品だと思う。故郷の沖縄の一人でも多くの方にこういう映画を撮るうちなーんちゅがいるんだと知ってほしいし、ぜひ劇場に足を運んでほしい。