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シニアがVR技術学ぶ 要介護者向け動画提供へ マニュアル作成、体験会目指す 那覇市で3日間、講習会


シニアがVR技術学ぶ 要介護者向け動画提供へ マニュアル作成、体験会目指す 那覇市で3日間、講習会 360度カメラの操作や撮影できる範囲などを確認する参加者ら
この記事を書いた人 Avatar photo 吉田 早希

 ITスキルのあるアクティブシニアが、360度動画を自ら撮影編集し、外出が困難な高齢者が楽しめる動画を提供する―。高齢者による高齢者のための仮想現実(VR)企画制作という、新たな取り組みが始動している。事業を実施するニューメディア開発協会が11月、活動のマニュアル作成に向け、試験的なVR撮影講習会を那覇市内で開いた。

 11月14~16日の3日間、市銘苅のなは市民協働プラザで開かれた講習会には、高齢者向けパソコン講座などを開催するシニアネットNAHAや沖縄ハイサイネットのメンバーら6人が参加した。事業を監修する東京大学先端科学技術研究センターの登嶋健太さんが講師を務め、360度カメラやVRゴーグルなどに触れることからスタート。最終日までにさまざまな撮影方法を学んだ。ニューメディア開発協会の小林孝文理事と島村佳枝さんも出席した。

 15日午前、360度カメラと自撮り棒、三脚がそれぞれ参加者に配布された。初めに360度カメラを自分のスマートフォンに接続。カメラを自撮り棒に取り付け、棒の長さや向きを調節しながら撮影できる範囲や映像の見え方、撮影方法などを確認した。

VRゴーグルを着用する参加者。両手のコントローラーを操作して楽しむ=11月15日、那覇市

 今度はVRゴーグルを着用し、両手に持ったコントローラーを操作する。映像内のバーチャルハンドで物をつかんだり離したりするなど、新しい感覚に親しんだ。講習会に参加したシニアネットNAHA理事長の渡口眞常さんは「初めてVRゴーグルを試したが、360度映像が広がり、中の世界に入り込んだ感覚で、没入した」と話した。

 来年4月末までに、アクティブシニアが360度動画の撮影編集を行うためのマニュアルを作成予定。それを活用し全国のシニアネット団体に向け勉強会を開き、ノウハウを学んだ人々が制作したVRを介護施設などでの体験会につなげたい考えだ。

 外出が難しい高齢者にVR旅行体験などを提供する登嶋さんは、アクティブシニアによるVR制作には三つの意義があると指摘する。一つは費用や時間、労力のコストだ。制作にはある程度のノウハウが必要で、映像を見せる時もゴーグルをかぶせるなどサポートが要る。一方、これを介護施設スタッフが対応するとなると業務過多に。日常的にスマホのカメラを使うなどデジタルに関心が高く時間的余裕もあるアクティブシニアも多いことから、制作側として活躍してもらう狙いだ。

 二つ目は、その地域をよく知っていること。なじみある街の風景を撮影でき、映像を見る高齢者との昔話など会話につながることも期待できる。最後に、アクティブシニアの社会参加や生涯学習の推進を図る意図もある。見慣れた街がいつもと違って見えるなど、新たな発見や撮る楽しみにつなげたい考えだ。

 登嶋さんは「同じ360度映像でも、人によって見る場所や反応が異なる。首を動かし積極的に情報を取りに行ったり、発語が多かったりするなど高齢者の変化も見える」と語り、介護現場でのさらなるVR活用に期待を込めた。

(吉田早希)