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障がい児療育 共働きに壁 福岡市、支援施設と保育所 併用不可 市独自制度 柔軟性なく(西日本新聞提供)


障がい児療育 共働きに壁 福岡市、支援施設と保育所 併用不可 市独自制度 柔軟性なく(西日本新聞提供) 仕事を辞めずに療育が続けられないか。女性は福岡市内のあらゆる児童発達支援事業所の資料を取り寄せ、日々悩む
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 「子どもの療育か、自分の仕事か。選べと言われているようです」。福岡市でダウン症の男児(3)を育てる会社員の女性(42)が西日本新聞「あなたの特命取材班」に声を上げた。男児は現在、市の児童発達支援センターで療育を受けながら保育所にも通うが、市の規定で来年度から保育所との併用ができなくなるという。取材すると、障害のある子を育てる共働き家庭に柔軟に対応できない、福岡市独自の療育システムが浮き彫りになった。

 児童発達支援センターは、障害や発達の遅れがある子が日常生活に必要な技能や知識を訓練する施設だ。男児は生後8カ月の時から週1回、親の付き添いの下、市内のセンターの「肢体不自由児クラス」で理学療法士など専門家による歩行訓練や食事指導などを受けてきた。女性と夫はいずれもフルタイム勤務で、支援が必要な子を支える市のサポート制度を使って保育所に通わせながら勤務を調整し、療育を続けてきた。

 女性は「子どもの発達に合わせた専門的な指導や助言も得られ、親子ともに救われている」と療育のメリットを感じている。男児は昨年歩けるようになったため、ことし4月からは別のセンターの「知的クラス」での療育を勧められた。

 ところが、そのために提示された条件は週5回、センターに通うこと。親の付き添いはなくなるが、保育所との併用はできなくなり、時間は午前10時~午後3時まで。延長して預かる制度もない。「療育を続けたい。でも、フルタイムの共働きではとても無理なんです」。女性は頭を抱える。

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 福岡市は未就学児の療育について、障害の種別と年齢によって、児童発達支援センターの利用頻度と利用時間を細かく定めている。

 九州各県の県庁所在地と政令市計8市の中で、センターと保育所の併用を認めていないのは福岡市のみ。障害の程度や年齢によって利用回数を決めるのも同市だけで、いずれも独自システムだった。

 なぜか。福岡市こども発達支援課によると、元々保育所では受け入れができなかった重い障害の子を念頭に作られた仕組みで、保育所などとの併用は想定していなかったという。「週5回という頻度は、専門家による療育を継続して受けられるようにするため。年齢に応じた子どもの負担も考慮し、時間、頻度ともに設定している」と説明する。

 近年は共働きで障害のある子を育てる家庭が増え、保育所に通いながら療育を受けるというニーズは広がっているが、同市の規定では対応できず、「仕事を辞めざるを得ない」との声が複数上がっている。同課は「今の仕組みは柔軟性に欠ける部分がある」と話す。

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 未就学児の療育施設には中核機関のセンターの他に、小規模な児童発達支援事業所がある。福岡市は事業所については他の自治体と同様、保育所との併用を認めているが、施設数が少なく利用者が限られる。

 2023年10月1日現在、福岡市にある児童発達支援事業所は22カ所。北九州市127カ所、熊本市99カ所、鹿児島市183カ所と比べると、福岡市の少なさは際立つ。

 同市は昨年、2026年までに事業所を29カ所増やす計画を打ち出した。「事業所を確実に増やし保育所での受け入れ体制の整備にも注力する」とするが、女性は「多くの人が今、困っている。センターと保育所との併用も認めてほしい」と訴える。

 (西日本新聞・本田彩子)