がんを克服した先の未来に、子どもを抱く可能性を残したい―。「AYA(アヤ)世代」と呼ばれる思春期・若年世代(15~39歳頃)のがん患者が、がん治療後に妊娠・出産する可能性を残すために実施する治療について知り、必要な支援について考えようと、3日、那覇市の県立博物館・美術館で、がんと生殖医療のシンポジウム「若い世代のがん治療に寄り添う―がん治療そして妊娠・出産を考える―」(主催・県がん診療連携協議会小児・AYA部会)が開かれた。琉球大学病院周産母子センター教授の銘苅桂子さんと那覇西クリニック理事長の玉城研太朗さんが基調講演をしたほか、パネルディスカッションも行われた。
AYAは「Adolescents and Young Adults(思春期と若年成人)」の略。進学、就職、結婚、出産、子育てなどさまざまなライフイベントに直面している世代で、治療と進学・就労の両立や妊娠・出産、パートナーや子どもとの関係への配慮など、患者の状況に応じたサポートが必要となる。
がん治療の際の化学療法や放射線治療は、卵巣や精巣の機能不全、妊娠する可能性の消失、早期閉経などを引き起こすことがある。そのためがん治療前に将来妊娠する能力を残す「妊孕(にんよう)性温存療法」を実施する場合がある。
同療法は、男性は精子凍結、女性は卵子・受精卵凍結をする。また初潮前の女児に対しては、臨床研究としての位置づけで卵巣組織凍結も始まっている。一方で、がんの進行度合いや、がん治療を始めるまでの時間的猶予、患者の全身状態によっては、同療法をあきらめざるを得ない場合もある。
銘苅さんによると、沖縄では2014年1月から23年3月までに、妊孕性温存療法を188例実施。がんを克服したあとに17人の子どもが生まれている。
一方で、かつては妊孕性温存の技術がなく、十分な説明を受ける機会がないままがん治療をせざるを得なかった結果、妊娠する可能性を失った人たちがいる。
銘苅さんは「時代的に技術や機会がなく、すごく悔しい思いをしている人もいるのではないか」と心情をおもんぱかった。その上で「治療について知らないことで、未来の子どもやAYA世代が将来にわたって(妊娠の)機会を奪われるのだとしたら、(このシンポを)やるべきだと思った」と周知活動の必要性を語った。
またがん治療によって妊娠する可能性を失った人たちにとっては、第三者からの卵子・精子提供や養子縁組なども選択肢として考えられるとし、「社会的なシステムの構築や多様な生き方に対する許容などは、がん治療の中でもとても求められている」と訴えた。
玉城さんはAYA世代は小児領域と成人領域のはざまに位置する年代であることから、小児と成人のがん治療医、看護師、薬剤師、心理士など、さまざまな職種が連携して診療、サポートする重要性を説明した。
その上で「伝えたいからといって、患者さんへ情報の押し売りになってはいけない」と指摘。「患者さん一人一人の性格や社会的背景、家族構成などそれぞれの考えを傾聴した上で、科学的根拠に基づいた専門家としてのアプローチが必要だ」と話した。
(嶋岡すみれ)