福島と沖縄で心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療に当たってきた精神科医蟻塚亮二さん(77)らの活動を記録した映画「生きて、生きて、生きろ。」が県内で公開されたのを機に、蟻塚さんと島田陽磨(ようま)監督、沖縄戦・精神保健研究会会長の當山冨士子さんが8月31日、那覇市の桜坂劇場で対談した。
蟻塚さんは自らがうつ病になったのを機に2004年、青森から沖縄に移り住んだ。病院で出会う患者の中に、うつ病の傾向がないのに「奇妙な不眠」を訴える高齢者たちがいた。子どもの頃の沖縄戦の体験が原因で、歳月を経てもPTSDが発症すると気づいた。
診断と治療に没頭したが、13年、福島県相馬市の診療所を任される。東日本大震災の被災者を診るようになった。沖縄戦のPTSD患者と同じ症状が見られるという。映画で、蟻塚さんは「生きてるだけで立派だ」と患者に声を掛ける。
対談で、蟻塚さんは沖縄での医療経験が生かされているとし、「沖縄の高齢者に助けられている。ありがたい」と語った。「沖縄も福島も国策に翻弄(ほんろう)され、捨て石にされた」とも指摘した。
映画には、原発災害のため避難した先で息子が自死した父親が実名で登場する。酒と薬に依存し、もうろうとしていた父親が、3年に及ぶ撮影の間に、支援者に支えられ少しずつ前を向く。島田監督は、本人が「このままなかったことにされたくない。全部ありのまま伝えて」と求めたことを対談で明かした。
これに対し、沖縄戦のPTSDを調べた當山さんは「沖縄戦は終わっていない」とし、「福島(の震災)も終わっていない」と強調した。
患者だった沖縄の男性と、蟻塚さんが十数年ぶりに再会する場面が映画にある。「戦争は忘れられない」と言う男性だが、蟻塚さんと笑顔で肩を組む。人と人が関わり続ける先に、きっとある希望が映像に刻まれている。「生きて、生きて、生きろ。」は、桜坂劇場とよしもと南の島パニパニシネマで上映中。
(宮沢之祐)