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琉球遺骨、沖縄県教委に採取場所の開示命令 那覇地裁、全ての開示は認めず


琉球遺骨、沖縄県教委に採取場所の開示命令 那覇地裁、全ての開示は認めず 原告の主張を一部認める那覇地裁判決を受け、「一部勝訴」と喜ぶニライ・カナイぬ会の会員ら=28日、那覇市楚辺
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 戦前、研究目的で今帰仁村の風葬墓「百按司(むむじゃな)墓」などから持ち出された琉球遺骨の返還を求める団体「ニライ・カナイぬ会」が、関連文書の一部を県教育委員会が不開示にしたとして県に情報開示などを求めた訴訟の判決で、那覇地裁(福渡裕貴裁判長)は28日、県教委による一部の不開示は違法だとして開示を県教委に命じた。一方で全部開示は認めず、国家賠償請求の訴えは退けた。

 開示を命じたのは、2019年に台湾大学(旧台北帝国大学)から県教委に遺骨が移管された際に作成された、「移管台帳」内の「頭蓋骨標示」の部分。遺骨の採集場所とされる地名などが記されているという。当初は遺骨に関する情報全てが黒塗りだったが、被告側は裁判中の22年10月、遺骨に割り振られた番号と性別の情報を開示した。

 被告側は情報開示をすれば、遺骨の利害関係者の訴えが増加し調査研究に支障が及んだり、誤った情報で混乱が生じたりするなどと主張していた。

 福渡裁判長は判決理由で、情報開示による被告側の負担は「県民に対して負う説明責任を履行するために必要かつ相当な負担などの範囲内にとどまる」と指摘。不正確な情報は今後の調査研究で説明し、混乱などは回避できるとした。県情報公開条例に基づく不開示の事由には当たらないと判示した。

 判決を受け、原告側代理人の三宅千晶弁護士は訴えが全て認められなかったとしつつも、一部の情報開示が認められたことに「正しい判断をしてくれた。うれしく思う」と述べた。県教委文化財課は取材に「内容を精査して今後の対応を検討する」とした。

 ニライ・カナイぬ会は、30日午後2~4時半、那覇市の県立博物館・美術館講座室で、判決の報告集会「なまからどぅやんどー!! わったー琉球先住民族の権利、取ぃ戻さな!!」を開く。

「一部勝訴」原告喜び 那覇地裁「知る権利」規定を尊重

 情報公開訴訟で県教育委員会に一部の情報開示を命じる判決が出たことを受け、ニライ・カナイぬ会の会員ら原告は28日、那覇市の那覇地裁前で「一部勝訴」と書かれた垂れ幕を掲げて喜んだ。その後、県庁記者クラブで会見し「県教委は判決を受け入れて速やかに情報を公開し、遺骨を元の場所へ返すことに取り組んでほしい」と要望した。

 遺骨が持ち出された今帰仁村の「百按司(むむじゃな)墓」に祖先のルーツがある亀谷正子共同代表(79)は「知る権利を保障してくれて良かった」と、安堵(あんど)の表情を浮かべた。同じ立場の玉城毅共同代表(73)は「情報の全部開示を認めてほしい思いもあった」とも述べた。

 仲村涼子共同代表(44)は「県教委は情報を不開示にする特権的存在ではない」と指摘。会員の渡口正三さん(65)は「元の墓へ戻すことを全うしたい」と決意を新たにした。
 会員の一部は、県外で提起されている琉球遺骨返還請求訴訟にも加わっている。22日の大阪高裁判決は控訴を棄却したものの、遺骨が元の場所へ戻る権利に言及した。共同代表の松島泰勝龍谷大教授(60)は「遺骨を返還させるため、一連の訴訟は大きなステップになった」と語った。