琉球新報社は10日、池宮城秀意賞記念フォーラムを開き、「沖縄ヘイトにあらがう」をテーマに県内外の識者やジャーナリストと議論を深める。そもそも「沖縄ヘイト」とは何だろうか。過去にどんな事例があったのか。琉球新報の記事などを基にまとめた。
フェイクを拡散
「沖縄ヘイト」とは、沖縄に対する差別的な言動(ヘイトスピーチ)のことを指している。特に、沖縄の重すぎる基地負担について改善を求める声や、新たな基地建設に反対する声などを含む内容に対し、差別や偏見に基づく言動が相次ぐ。事実に基づかない「フェイク」を基にした誹謗中傷も拡散され、事実を確認する「ファクトチェック」も重要になっている。
沖縄差別は、歴史的な出来事の中でも確認できる。明治政府が琉球を強制的に併合し、沖縄県を設置したのが1879年。それから24年後の1903年に起きた「人類館事件」もそうだ。大阪で開かれた「第5回内国勧業博覧会」の会場外に設営された「学術人類館」で琉球人、アイヌの人々、台湾先住民、マレー人らが民族衣装姿で「展示」され、当時の琉球新報は抗議・批判する記事を出したが、他民族への差別的な見方もあらわになった。沖縄差別の象徴的事件であると同時に、沖縄側から他民族へ差別的な視線を向けていたことも確認されている。
沖縄に対する差別的な言動は、戦前や戦中、戦後の日本復帰後も続いてきたが、「沖縄ヘイト」という言葉で表現する機会は、過去20年ほどの間に使われることが増えてきたとみられる。グーグルの検索ワードの傾向が分かる「Googleトレンド」によると、「沖縄ヘイト」という言葉の検索は2004~2008年ごろが比較的多い傾向が確認できる。
「差別意識が凝縮」
例えば、2016年10月には、米軍北部訓練場のヘリパッド建設現場に反対して抗議行動をする市民らに対し、大阪府警から派遣された機動隊員が「土人」「シナ人」などと侮蔑的な発言をした。この発言が報じられた当時、県民から「沖縄に対する差別意識が凝縮されている」「心の根底にあった沖縄蔑視の感覚が表に出てきたのではないか」などの声が取材を通して聞かれた。
当時、機動隊員による「土人」発言などについて、政府や派遣元の大阪府知事の間からも、擁護する発言が聞かれた。菅義偉官房長官(当時)は「許すまじき行為」などと述べ、発言は不適切だったとの認識を示した。一方、大阪府の松井一郎知事(当時)は機動隊員の「土人」発言をかばうようなコメントを出した。さらに、鶴保庸介沖縄担当相(当時)は「私個人が大臣という立場で『これが差別である』というふうに断じることは到底できない」との見解を示した。その後、政府として「差別と断定できない」とする見解を反映した答弁書を閣議決定した。差別を止めるどころか、助長するような公式見解を発したことに批判の声が上がった。
「テロリスト」呼ばわり
2017年には、東京メトロポリタンテレビジョン(東京MX)の番組「ニュース女子」は、米軍北部訓練場のヘリパッド建設に反対する市民らを中傷した。沖縄の基地問題を特集し、基地建設に反対する市民を「過激派デモの武闘派集団『シルバー部隊』」「テロリスト」と表現した。さらに「反対派が救急車を止めた」と事実と異なることを放送し、印象操作をした。
この番組の中で名誉を傷つけられたとして、ヘイトスピーチ反対団体の辛淑玉(シンスゴ)共同代表は、制作会社「DHCテレビジョン(現・虎ノ門テレビ)」を相手にした訴訟で、損害賠償を求めた。裁判で辛さんの訴えが認められ、550万円の支払いと謝罪文のネット掲載を製作会社に命じた判決が2023年4月に確定した。
インターネットや交流サイト(SNS)などの利便性向上や普及に伴って、匿名で差別的な言動を書き込んで発信し、拡散する事例も目立つ。顔も名前も出さずに、差別的なコメントを発信して大量に拡散している。
差別解消を図る条例
辺野古新基地建設をめぐる設計変更を承認しなかった玉城デニー沖縄県知事の判断を支持し、オール沖縄会議が5日に北谷町で開いた県民集会を報じた琉球新報の記事は、X(旧ツイッター)でも投稿した。これに対し、「反基地カルトの頭大丈夫か?」「もう反日運動でしょ」などの中傷が相次いだ。
沖縄戦で多くの県民が犠牲になり、戦後も大きすぎる基地負担を押しつけられ不条理が続いてきた歴史の中で、県民は多様な形で何度も異議を申し立ててきた。こうした背景の中、名護市辺野古の新基地建設について、県民投票や選挙で反対の声が示されても、国はその声を顧みずに基地建設を強行している。こうした国の姿勢は、「沖縄ヘイト」を繰り返す人々の言動を支えている。
沖縄県では、差別的言動(ヘイトスピーチ)の防止を図る「県差別のない社会づくり条例」が2023年3月の県議会で成立した。外国人や性的少数者、沖縄県民であることなど、立場や心情、性自認などを理由とした不当な差別を許さず、全ての人の人権が尊重される社会の実現を目指している。一方、この条例については、罰則がないことを問題視し、実効性を持たせるには、罰則を設けるべきだとする意見も上がっている。